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2021.04.02

旭川発[USAGIYA]
吉川昌秀さんの
茶の課題解決型思考
<後編>

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北海道旭川発の日本茶ブランド[USAGIYA]。前編では、代表の吉川昌秀さんが家業のお茶問屋を引き継ぎ、若手デザイナーと手を携えながら新たなブランドを構築していった経緯を聞いた。新しい形状のティーバッグの話からサブスクの誕生秘話へとつづく。

“裸に近い”ティーパック

2004年に家業の[吉川園]に戻った吉川さんは、経営をなんとか立て直そうあの手この手の努力をしていた。その中で見つけたものの一つがこの新開発のティーバッグだった。

従来のナイロン製のティーバッグは基本的に網目の穴は四角く小さい。こちらのティーバッグをよく見てみると波線のようになっている。ニットのようなこの編み目は液体の中で隙間が膨らむようになっているため、バッグ内の抽出液が外に出やすくなっているのだという。吉川さんの言葉を借りれば「裸で出している状態に近くなる」とのことだ。

こちらがそのティーバッグ、中身はオリジナルブレンドの煎茶〈兎茶〉。「生分解性なので使用期限内に使い切らないといけない。でも僕は面白いと思ったんです」

吉川さんはさらに続ける。

「それと、なんてことない普通の携帯用ボトル。耐熱性があって熱いお湯も大丈夫だよっていうので、[吉川園]時代に見ていて、使いたいなって思ってたんです。でも社長は父親で、その時は無理だなぁって思ったんですよね。それで自分で兎屋をやるときになって、やっぱりボトルティーをやりたいなって改めて考えたんです。このティーバッグの仕入れ先からは当時リーフも仕入れていたんですが、兎屋になってからティーパックだけに絞り込んだんです。良いものだって信じて、僕はもう覚悟を決めていたので」

商材の見極めの裏側にあったのは、お茶をもっと日常で飲んでもらうためのイメージ。お茶を飲むことが習慣ではなくなっているという課題への吉川さんなりの答えだ。

「このボトルにティーバッグをぽんと入れて、それで飲むというようなスタイル。職場でも家でも車でもお茶を持ち出せる。飲む場所を限定されなくなる。そういうのがいいなぁって思っていた」

このコンセプトを持って2015年11月の[USAGIYA]オープンに向けて準備を進めていた吉川さん。ボトルにティーバッグというスタイルが、話題のサブスクリプションのベースになっているのだが、サブスクのアイデア自体はとある友人との会話がきっかけになったのだという。

「3年前にガンで亡くなった友人がいるんですけど、彼がガンになってやることなくなっちゃったという時にうちで軽作業を手伝ってくれていたんです。ある日、うどんを食べに行った時『昔、はなまるうどんで500円の定期券があった』って言い出すんです。(違うお店に)うどんを食べに来たのに、そんな話はあれだなぁなんて言ってたんですが、食べ終わったときに『ちょっと待てよ』って。今ボトルにティーバッグで売ろうとしているけど、お客さんにとってはやったことないことですよねって。こうやって飲んでくださいっていくら言っても、やらないですよねって。そう考えた時に、定期券の考え方ってありかもなって思ったんです」

14種類+季節限定1種類のメニューから好きなお茶を選んでボトルに入れてくれる
この取材中にも、空のボトルを手にお店に入ってきては、好きなお茶でボトルを満たして出かけていくお客が何人もいた。ちなみに正確に言うと、「1,500円*で30日間飲み放題」というシステムなので、いわゆるサブスクの「毎月払っているけど使っていない」という状態にはならず安心(*価格は記事公開日時点)

このティーボトリングによって、売り上げ以上に大切なベネフィットがあった。それはシンプルに「お客さんがお店に来てくれること」。

「自社のものを使って、お客さんに常にお店に足を運んでもらうような仕組みってすごく大事。そのとき伝えたいことを自然に伝えられるんですよね。やっぱり顔を合わせて会うこと、そしてその頻度が高ければ高いほど信頼関係が生まれる。ビジネスとしても“何かあったときに思い出す相手”になることって大事ですよね。お茶のことを考えて生活している人ってほぼいないと思うんですよ。でも毎日通ってたらね、『そうだ、親の誕生日だ』とか『母の日だ』とか、(お茶が)選択肢になる。あるいは苦情も届きやすくなるんです。自分たちを変えるヒントをいただける。そういう話が自然にできるようになれば、正しい関係なのかなって」

吉川さんのお話を聞いていると、マーケティングの経験があるんですか?と尋ねたくなってしまう。「ないですないです」と笑って否定する吉川さん。こうしたお茶を介した人間関係は、むしろ吉川家の茶の間が原風景なのだと、次の話を聞いて思い直した。

「うち兄弟4人でね、ばあちゃんじいちゃんち行くと、お茶だよってみんな集まってお茶飲むんですよ。するとおじいちゃんが『昌秀くん』って。僕は水泳選手だったので『試合はどうだった?』とか。うちの兄貴にも、いろいろ聞いて。日常に起こってることとか、悩んでいることとかを自然とお話ができるっていう状況を作れるのがお茶ですよね」

旭川本店ではリーフのお茶も販売されている。[吉川園]時代からのお客も大切にしながら、日常のお茶への入口を広げている。〈兎茶〉は、宇治の玉露とかぶせ茶、静岡の深蒸し茶というどれも個性派のお茶をブレンドした吉川さんこだわりの一品

だからこそ、日々お茶を飲みに来てもらえるというのがとても大事なことなのだ。旭川発、東京・原宿に続いてこれからも拠点の拡大を考えているのだろうか? 吉川さんはすでに次なる課題に向き合っている。

「自分たちだけでどんどん出店数を増やすのは難しい。だから人様の力も借りるということもしなければいけないとすごく考えていました。それで今、「パートナースタンド」といって、雑貨屋さんやシェアオフィス、ジムや洋菓子屋さんとかのスペースで、うちと同じように15種類のお茶が汲めるっていうお店を募っているんです」

働く人や買い物をする人など、さまざまな目的で街を歩く人々がお茶に触れる機会を増やす。逆に、お茶一杯を求めて来るお客が、そのお店の常連になるかもしれない。「お花屋さんにあったら通うようになって、奥さんにお花を買って帰るようになるかもしれない。そうしたら多分その家も平和になりますよね」と社会の好循環すら期待させる。

煎茶もほうじ茶もブレンドティーも同じ値段なのも面白い。値段の差という情報をなくしてあげることで、選ぶことを自由に、ハードルを下げている

「お茶だからそうやって、嫌味なく、自然と集まることができる。おじいちゃんが僕に水泳の成績を聞くような、そんな世界の話なんですよね。これをさらに地域間で考えていくのもいいですよね。例えば東京に出すことによって『北海道のお茶屋さんなの?』ってね。それで旭川にも来てくれたら、それはひとつ『やったー!』ですよね」

お茶が多くの人の日常に入っていくことで、地元旭川や、茶産地、資材メーカーなどなど、協力先が抱える課題にもできることがあるのではと考えは膨らむ。

「真面目にやっている人の情熱が当たり前に伝わるような世の中になっていくといいよな、っていうね」

季節の〈生姜玄米茶〉をいただきながらすっかり話し込んでしまったが、私たちは身も心も温まって旭川を後にした。

吉川昌秀|Masahide Yoshikawa
1974年生まれ、北海道旭川市出身。祖父の代から地元で続いていた茶問屋[吉川園]を引き継いで、2014年に株式会社兎屋を設立。小規模での製造・卸し売りを引き続き行ないつつ、2015年にカフェ併設の小売店[USAGIYA]の1号店を旭川にオープン。現在、江別蔦屋書店、札幌パセオの他、東京原宿に店舗を持つ。定額制のボトリングサービスは直営店の他にも、パートナースタンドと呼ぶショップやシェアオフィス、ジムなどでも利用可能となっている。
usagiya-tea.jp
instagram.com/usagiyaofficial

Photo: Takuya Kakimoto
Text: Yoshiki Tatezaki

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