• 札幌[お茶の土倉]から
    北海道カルチャー届ける
    「土熊」の物語
    <後編>

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    札幌[お茶の土倉]から 北海道カルチャー届ける 「土熊」の物語 <前編>

    例年よりも早い桜の開花の知らせが各地から届いている。 桜前線が北上するように、じきに九州地方からだんだんと新茶の知らせも上ってくる。桜の場合、沖縄から北海道まで桜の名所があるが、お茶の場合は栽培の北限があるとされている。…

    2021.03.23 INTERVIEW日本茶、再発見

    札幌の老舗茶屋[お茶の土倉]では、北海道の象徴・クマをモチーフに新たなお茶ブランドが生まれようとしている。前編に引き続いて、その制作過程をデザイナーの向井まどかさんと[土倉]の伊藤理恵さんに振り返っていただいた。そして、ローンチを記念して札幌のギャラリー[sabita]で行われたお披露目イベントで「土熊」はどう受け取られたのかリポートした。

    北海道らしさと愛嬌

    新ブランド「土熊」で販売されるお茶は3種類。北海道を代表する農産品のひとつであるトウモロコシをじっくりと焙煎した「とうきび」。「ラベンダー」と「ハッカ」はそれぞれ茶師が合組した煎茶をベースに、上富良野町のラベンダー、滝上町のハッカという北海道の恵みをブレンドしたお茶。いずれも香料無添加で、自然の香りと味を楽しめる。茶産地ではない北海道が生んだ「北の日本茶」だ。

    [お茶の土倉]でギフト部門で働く伊藤理恵さん(左)が、デザイナー・向井まどかさんに「ラベンダー」のお茶を淹れる

    パッケージのデザインにも「北海道らしさ」が取り入れられているそう。向井さんと伊藤さんの話を聞こう。

    伊藤 鮭ではなく急須をくわえるクマがいて道内を駆け巡っていて、その周りにも海とか山とか鳥とか北海道を表すものが描いてあるんです。あれ、鳥で合ってます?

    (写真:古瀬圭)

    向井 これはですね……でも自由なんです。こういうシンプルなデザインにしているので、想像を膨らませていただけたら嬉しいです。

    伊藤 本当は何ですか?

    向井 雪とか、北海道の豊かな季節を意識しました。

    伊藤 そうなんだ!

    向井 星にも見えますね。そこはみなさんにイメージを膨らませていただいて。

    伊藤 でも、いずれにしても北海道らしいですよね。

    向井 そう感じてもらえれば嬉しいです。「北海道」の文字は小さくは入れているんですけど、あまり主張しすぎないようにしました。

    伊藤 木彫りの熊のこの姿は絶対に見たことありますからね。馴染みやすい。

    向井 いい具合の既視感と、愛嬌っていうところですかね。

    伊藤 やっぱり、手に取りたくなるっていうのは大事ですよね。今までの食卓にある普通のお茶とは違うので、これから買ってくれる方に向けてですかね。

    向井 お茶の文化っていうのを知らなかった方にも、土倉さんを入り口として知っていただいてということが、今後大事なのかなって。

    最後に「ハッカ」は向井さんが淹れてくれた。「今回のプロジェクトに携わって仕事中に(お茶を)飲んだりして、実際すごく癒されてるっていうのが実感できて、それをデザインできているっていうことが嬉しくて」と向井さん

    この2日後には、札幌のギャラリー[sabita]で「土熊」のお披露目イベントを控えていた。試飲の案内係を務める予定の伊藤さんは「人前でしゃべることなんてできないから」と緊張した様子。「これ飲んで癒されてください」という向井さんの一言が和ませる。

    「打ち合わせの中で羽鳥さんが、お茶を飲むということで生まれるこういう優しい時間というか、軽やかな会話みたいなものをお客さんに提供したいとお話しされていて。自分の中で素敵だなって思ったんですよね。茶葉を育てている会社さんではないので、そういった“時間”というものをいろんな人に感じてもらうという考え方はいいのかなって思って、そこにクマが寄り添ってくれるっていうテーマで作ってたんですよね」(向井さん)

    お披露目イベントの当日。円山公園近くにある人気のギャラリー[sabita]の前にはオープンを待つお客さんが列を作っていた。十勝で木彫りのクマと山を制作する人気の木工作家・高野夕輝さんが、このイベントに合わせて作品を数点届けてくれていた。

    高野夕輝さん作の木彫りの日高山脈と急須をくわえたクマ(急須クマは非売品)

    ギャラリーの2階で行われた喫茶では、札幌で予約制のカフェ[ロヴァニエミ]を営む國田雅代さんが3種のお茶に合わせる特別なお菓子を振る舞う喫茶室が限定オープン。

    カウンターの中で準備を整える國田さん

    お皿には二つの最中。一つは(またしても!)クマの形。この型は偶然にも小樽の老舗[藤崎最中種製造所]に存在したものだったのだそう。普段はシフォンケーキなどコーヒーに合わせるお菓子を作る國田さんに、今回のお菓子づくりのポイントを聞いた。

    「まず[sabita]さんのこの白い空間に合うものと考えました。そこで白いこしあんに生クリームを合わせたのがクマの最中です。カカオニブを乗せて少し食感を加えました。[藤崎最中種製造所]さんの最中は自然な素材だけを使って風味がとても良いので、それも活かしたいと思いました。丸い最中は、ヌガーグラッセです。ヘーゼルナッツに飴をかけて砕いたものを混ぜています。甘めの味なので、金柑ジャムを添えました。今回のお茶がどれも自然なものなので、お菓子もシンプルさを大切にしました」

    どのお茶も香料無添加なのに、本当に香りがいい。「とうきび」はトウモロコシのひげではなく実の部分を使用していたり、食用としては非常に貴重なラベンダー、実はとても珍しい国産のハッカを使用していたりと、原料探しにも努力を惜しまない「北の茶匠」としての矜持が表れている。

    札幌市内から参加したという姉妹に話を聞くと、「あの[土倉]さんのお茶なんだって意外に思いました」と新鮮に受け取った様子。ちょうど誕生日プレゼントを探していたところだったそうで、「土熊」のお茶を購入して帰って行った。

    落ち着いた雰囲気のなか喫茶を楽しんだお客さんのほか、1階のショップスペースにふらっと立ち寄ったお客さんも多くいた。寒いなかお店にたどり着いて、まず一杯、温かいお茶をいただくと、ふと心が和らぐ。洗練された空間にいながら、“ホーム感”とでも呼びたくなる居心地の良さが感じられた。

    「土熊」を中心に食、デザイン、アートまで北海道の魅力が集まり、そうしたつながりのそばにあるお茶というものの良さを体感できた札幌での時間となった。

    [sabita]にて限定販売されていた「土熊」だが、4月1日からはCHAGOCOROを通じて購入することが可能になる。今後少しずつ北海道外の店舗でも展開を広げていく予定だという。

    急須をくわえたクマが、これからは日本全国にお茶と愛嬌を振りまいていくことだろう。

    お茶の土倉|Tsuchikura Co., Ltd.
    1964(昭和33)年設立、札幌市白石区に本社を構えるお茶の製造会社。道内の飲食店やホテル客室など、気がつけば土倉のお茶、というほど深く根付いている。1970年代には林家三平さん、80年代には林家こぶ平(現在の林家正蔵)さんがテレビCMに出演するなど道内での知名度は抜群。2021年3月31日にハーブティーの新ブランド「土熊」をローンチする。
    tsuchikura.co.jp

    sabita|サビタ
    instagram.com/sabita_yoshida

    ロヴァニエミ|Rovaniemi
    instagram.com/rovaniemi_cafe

    Photo: Takuya Kakimoto
    Text: Yoshiki Tatezaki
    Special Thanks to Harumi Fukuda & Kenichi Mearashi

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