• 寿司店・酢飯屋と
    八女茶くま園による
    「一魚一茶」<後編>

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    10種類の寿司に10種類のお茶を一品ずつ合わせる「一魚一茶」がお開きとなった後、[八女茶くま園]園主・中谷一美さんと[酢飯屋]店主・岡田大介さんそれぞれに今回のお話をうかがった。想像をこえてくるペアリング体験で参加者を楽しませたが、出し手であるお二人にとっても、自由で楽しく、寿司とお茶の新たな可能性を感じる機会となったようだ。

    お茶も自由な発想で面白い発見につながる

    —中谷さんはこれまでにお茶と食べ物のペアリングということはされてきましたか?

    中谷 フレンチやイタリアン、和菓子やチーズなどでお話させていただくことはあるのですが、その場合、一杯に対して大きいお皿と合わせることになります。お寿司は一対一の勝負という感じが楽しいですね。お寿司は初めてでしたが、すごく楽しめました。

    —玉露もほんの少しずついただきましたが、とても味が強くてびっくりするくらいでした。

    中谷 お寿司だったら、(お茶を)調味料として活用できるっていう感覚があって、ここに私たちの玉露を生かす道があったって思いました。他地域の玉露はまた味が違ってそれぞれですが、八女のお茶は旨味の調味料になるのではと思います。クリアで素材を引き立たせつつ、味が負けないようにというイメージです。

    —本当に様々なお茶をいただいた中で、燻製紅茶は特に印象に残りました。

    中谷 これだけのお寿司があるので、味の変化が分かりやすいようにと燻製を作りました。燻製を試した様子をインスタグラムであげたら外国の人から反響がありまして、世界的には注目があるのかなと思っていました。うちの場合、茶殻を活用して燻製しています。茶殻をすぐに捨てるのではなく、少し手を加えることで最後までお茶の命は全うさせたいなと思います。

    —それと、変わったものでいうと焼き茶でしょうか。元々、お茶農家さんがお茶っぱはないけれど生の茶葉があるから焼いちゃおうとやっていたということですよね?

    中谷 そうです。自分の祖父母と叔父の時代まではやっていたそうです。現在の販売にはのらないお茶ですが、結構お茶の原点に近いお茶なのかなと思い、やってみました。色々な品種のお茶も面白いとは思うんですけど、原点に帰るっていうのはもっと面白いじゃないかなと思って焼いてみました。日本茶インストラクターとして決まったいれ方というのを教えることもしていますが、お茶が本来持っている力はそれ以上だとも思っています。煎茶道を学んでいますが、所作に型はあっても、お茶に対しては型にとらわれないとても自由な思想なのです。今回も学びを活かして発想の幅を広げました。沢山の面白い発見がありましたし、とても楽しかったです。

    文化を広めようという意識

    —「あがり」といわれるように、お茶はお寿司にはつきものですが、「一魚一茶」ではその関係性が全く新しくなるような感じでした。

    岡田 あって当たり前なものですよね。食中でも食後でも邪魔をしない。あるいは脂を流すとかそういった形でお寿司屋さんのお茶って活躍するものという文化ですよね。それはそれでひとつの形なので、そのひとつ先が今回の企画だったのかなと感じますね。

    —八女茶くま園の中谷さんとは元々お知り合いだったのですか?

    岡田 大元は紹介でしたが、数年前に紅茶のワークショップをお店でやる機会があって仲良くなりました。お茶をつくって売るのが仕事なわけですけど、その過程でちゃんとお茶文化を広めようとしている姿勢がやっぱり良いですよね。僕も魚を仕入れて握ってお金を稼ぐという商売ではありますが、寿司という文化を広めようという意識を持って動いている面もあります。やらなくていいんじゃないかって思う人はいるんでしょうけど、年齢的にもそういうことも自分の役割なのかなと思っています。中谷さんはお茶でそういうことをすごく自然にやられていますよね。

    —中谷さんもお茶はもっと自由でいいという風におっしゃっていました。

    岡田 若い人たちが、寿司の少し閉じたキュッとした世界観に入っていくには時間がかかります。かといって、回転寿司の方に本軸がいくのは違うかなと思います。そうすると、固まった世界を少し柔らかく自由に見せるということかなと。お寿司の形も自由だし、表現も自由だし。ただ、「創作寿司」とはまた少し違うんです。

    —ハタハタ寿司やキビナゴのおから寿司も元々あるものなんですよね。

    岡田 元々あるどころか、お寿司のルーツだったりするんです。秋田郷土料理屋さんとかならあるんですけど、ハタハタ寿司が寿司屋に無いっていうのが僕は逆に不思議で。歴史を踏まえているし味も美味しい。完全にお寿司と関係している食べ物なので、もっと出してもいいかなと思います。つまり僕はハタハタ寿司やおから寿司とかを学んできて再現しているだけ。創作しているっていうよりか伝統を重んじている。そういう感覚で僕はやっています。自分が知らないお寿司ってまだたくさんあるので、それを学びに行くというのを続けています。これは絶対面白いと思ったらお店でやってみるんです。

    —様々な組み合わせを試されたと思いますが、また次回へとつながりそうでしょうか? 

    岡田 今日出していなかった魚はまだまだたくさんあります。季節も違えば別の魚がありますから、シーズン毎にまた実験しなきゃいけないですね。例えばイクラと合うお茶ってどれなんだろうみたいな。失敗を繰り返しているうちに見つかってくるものです。段々と傾向が分かってくるので、実験を繰り返すのみですね。

    いずれも長い伝統を持つお茶と寿司という世界。歴史を重んじながら新しい方向に向かって試行錯誤を繰り返すことが、伝統に光を当てつづけることにつながる。「一つの魚に一つの茶」というシンプルなテーマから想いを巡らせば、今回のお茶と寿司のように奥深い世界が垣間見えてくる。


    酢飯屋
    東京都文京区江戸川橋駅近く、完全紹介・予約制の寿司屋。ランチとディナーで角度の違うお寿司を提案。同じ場所で日中営業している[suido café]では、日本各地の作家の器で楽しめるスイーツや自家製ジュースなども提供。さまざまな作家の個展を行なう[水道ギャラリー]も併設。「やりたいことは、やってみる」を基本理念とする店主・岡田大介氏は、日本各地の郷土寿司を習うことをライフワークとする。
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    八女茶くま園
    福岡県八女市でお茶の生産・製造・流通・呈茶まで一貫して手がける。久間園、おぼろ夢茶房という茶園で育てられる茶葉は、全国茶品評会一等一席(農林水産大臣賞)受賞、日本茶AWARD入賞など高い実績を持つ。扱うお茶の種類は、煎茶、伝統本玉露、抹茶、紅茶。良い土を耕すところから良い一服をもたらすまで、丁寧なお茶づくりにこだわる。
    kumaen.net
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    Photo: Yoshimi Kikuchi
    Text: Yoshiki Tatezaki

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