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2020.11.06

大山泰成さん&
丸山健太郎さん特別対談
日本茶のネクストステップへ
<後編>

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茶師十段の資格を持つ[しもきた茶苑大山]の代表・大山泰成さんと、日本におけるスペシャルティコーヒーの先駆け[丸山珈琲]の代表・丸山健太郎さん。[丸山珈琲 西麻布店]では大山さんが厳選する釜炒り茶が提供されていてかねてより親交があったお二人だが、膝を突き合わせてゆっくりお話するのは今回が初めて。前編に引き続き、二人のトップランナーによるお茶をしながらの“意見交換会”はさらに続く。

日本茶はハンドドリップできるか?

— 先ほど急須で淹れていただいた釜炒り茶を今度はコーヒーのドリップのように淹れていただけるということで、大山さんお願いいたします。

大山 日本茶の業界でも最近ハンドドリップっていうのが出てきているんですが、ハンドドリップっていうのは基本的に「透過式」(コーヒーをお湯に浸けておくのではなく、お湯を通すだけの方法)ですね。一方で、コーヒーで言う「浸漬しんし式」(コーヒーをお湯に一定時間浸しておく方法)、日本茶では「浸出・煎出」という言葉を使いますけど日本茶のハンドドリップの多くがこれで、本質的に方法が異なるため(日本茶をドリップするという試みが)形だけの一過性のブームに終ってはいけないなと思っていました。そんな折、丸山さんにご協力いただきまして、2018年1月に西麻布のお店で日本茶関係者向けに抽出方法の講習会「コレスゴールドフィルターを使用したハンドドリップの日本茶への応用」を開いていただきました。形ばかりの流行のようなものではなくてトップバリスタに西麻布のお店でやっていただけたということはとても意義のあることだったと思っています。それを今日もう一度再現をしてみたいと思います。

計量器、ガラスのコーヒーサーバーにコレスゴールドフィルターというバリスタさながらのセットで釜炒り茶をドリップしていく大山さん。お湯は少しずつ少しずつ茶葉に浴びせていく

大山 透過式の良さというのは、絶えず新鮮なお湯だけが通過していきますので、いいところだけを上手に出すことが可能だと。どうしても浸しますと、日本茶でもおいしい味、そうではないものっていうのもありますから、手技により良いところだけを効率よく出すということができる淹れ方と言えますね。

— このコレスのゴールドフィルターは丸山さんが共同開発に携わっていたそうですね。

丸山 そうなんです。自分で言うのはなんですが、この小さいのはよくできていると思います。昔ですと「これで技術が身につくのか」と言われてしまうところだったと思いますけど。

— 丸山さんも元々はネルドリップで一杯ずつというやり方をされていたと。

丸山 私も本当に、銀座の[(カフェ・ド・)ランブル]さんに行ってネルドリップの柄を買ってきて、どこかのお店のマスターにネルを分けてもらって自分でいつも持っていました。初期の2〜3年はお店で使っていたんですよ。

ドリップの釜炒り茶が入る。左手前に置いてあるのが「coresゴールドフィルター」

丸山 色が綺麗ですね。先ほどよりも温度が低い?

大山 そうですね。芯の方から出てくる味を抑えて、上の方のおいしいところをなるべく出してくるというか。

丸山 はい、わかります、わかります。さっきより、旨み分っていうか、甘みが出てますね。当然浸けていたさっき(急須)の方が、いろいろな成分が量としては出ているかもしれないけど、出ている味の良いもののバランスが高いっていうか、強く感じるっていうか。……あぁ、さっき言っていたフローラルな、でもちょっといぶったような香りの、強みのあるものが、これはさっきのよりもっとフワって感じで、甘いっていう感じですね。

大山 ちゃんと味を出す、水っぽくしないといったいろいろなアドバイスをいただきまして、すごく私の役に立っている気がします。

丸山 甘いし、渋み…お茶でいう渋みですかね?

大山 注いだお湯は、同じ85度で、急須は蓋をしますから中で保温状態になる。コレスの場合、熱はどんどん逃げていく。あとコーヒーは種、お茶の場合は葉っぱ。お茶は揉んでありますからお湯をかけただけでも出やすさっていうのはあるので、こういった透過っていうのも日本茶では面白いかなって思っています。

丸山 すごく質のいい渋みがずっとあって、お茶を噛んでる感じ。

大山 私もこんな味好きなんですけどね。ほっぺたが落ちるというような、甘さとか旨さが後から追いかけてくるような。口に含んだ直後よりむしろ、先ほど長く余韻があるとおっしゃっていましたが、まさにその通り。

丸山 お話していても、(余韻を)感じながら楽しめるっていうか。

日本茶喫茶の次の形

大山 今回、もう一つお聞きしたかったことがありまして。日本茶の場合、一煎目、二煎目、三煎目というような楽しみ方なんですが、コーヒーの場合は12グラムとか13グラムとか使って、一回なんですね。日本茶スタンド、日本茶喫茶をやろうとしたときに、この一煎目、二煎目、三煎目というのが、実はビジネス上大変難しい。滞在時間が長くなりますし、なかなか採算が合わないと。それだけが原因だとは思いませんが、なかなか日本茶喫茶が普及しないというか、長続きしないところは一つ課題かなと思っています。こちら(コレスに残っている茶殻)もまだまだ出せそうなお茶の葉なので。もっと気軽に街中で、丸山さんがされているコーヒースタンドに匹敵するような日本茶スタンドっていうのが普及して、一杯だけで楽しめる、おいしい、満足、そういうことっていうのはできないかなといつも思っているんです。

丸山 なるほど。私は外側の人間だから、逆に言うと、お茶の良さは何煎も楽しめることだと思っていまして。西麻布だと二煎目も無料でお出ししているんですけど、あれをチャージにするとか……でも確かにスタンドっていうことだと、そうですよね。スタンドって、合間や隙間の時間を埋めることだったり、ちょっと喉を潤すだけだったりが目的で、そうするとやっぱり、「濃い」ということが「おいしい」となる部分はありますよね。コーヒーもスタンドに立ち寄る人たちは、例えば午前中元気で仕事するためとか機能的なところもあると思うので、濃さとか強さがないとどうしても満足感が薄いんじゃないかと思いますね。

大山 外国人の方に、よく「日本へ来てコーヒーは気軽に美味しいものがスッと頼めるのに、なぜ日本で日本茶が頼めないのか」みたいなことをよく言われるんですね。急須で淹れて何回か楽しんでいただく、これ自体は至福の時間というか素晴らしいと思うんですが、やっぱりもっともっと日本茶の市場を広げたりファンを作るためには、というような気持ちもあります。

丸山 思いつきですけど、チェーンのコーヒースタンドなんかは、20〜30分の提供分をバッチで大きく作っておくじゃないですか。お茶も良い大量抽出の機械とかあるのかもしれませんけど、今は全部ペットボトルでそれをやっている感じですよね。なんですけど、スタンドという意味では、ある程度濃いものがパッと出せたら、僕はいいのかもと個人的には……すみません、暴走しましたが(笑)。

大山 あぁ、それはすごい示唆だと思います。今日は日本茶のネクストステップというか、日本茶が次に何をしていったらいいのか。日本茶というのはかつて10万トンを超える消費があって生産が追いつかないほどで。今度は逆に10万トン作る生産能力ができたにもかかわらず、消費が8万トンを切ってしまう、2割近くが余っているという。国土の保全にも役立つといわれている日本のお茶生産が荒廃してきているんですね。それにもかかわらず海外に目を転じますと緑茶っていうのが大変注目されて、どんどん商品も生産が増えている。日本だけがガラケーのような状態で、蛸壺にはまっている。そういった中で、新たなネクストステップがどうあるべきなのかなというのを業界が模索しているんですね。

入り口は単純でもいい

丸山 私、昭和43年生まれで、両親が公務員で忙しくて。忙しかったけど、朝は必ずご飯と味噌汁、魚もありましたよね。前の日の残り物もあったりしたけど、食べたら必ず、お茶を飲むんですよ。夕飯も食べ終わると母親がちゃんとお茶を淹れてくれて、そういうのにずーと慣れてきて、そういうもんだと、ただで飲むものだと、どこに行っても出てくるものだということでやってきた世代と、逆に今の息子たちの世代だとお茶ってペットボトルじゃないですか。そういうギャップはありますよね。多分若い人たちもどうやって淹れたらいいかわからないし、どうやって味わったらいいかもわからないということだと思うんですね。本来はそこでプロの方たちが調整して、アジャストメントしてドッキングすべきなんでしょうけど、そこがちょっとうまく繋がっていないのかなっていう。かと言って今の若い人にウケるためにやってしまいますと亜流に見えてしまいますし、難しいところですよね。

丸山 このお茶はものすごく繊細な味だと思うんですよね。スペシャルティコーヒーもそうなんですけど、難しい世界ではありますよね。みなさん忙しいし、なかなかその時間を持っていただけない。「品質の世界」はゆっくり広がっていくじゃないですか。一方で、一般の方は濃さから入る。よくお話聞いていると、「あそこの方が濃いから美味しい」と。でもやっぱり入り口としてはしょうがなくて、少し濃いめの良質なものをきちっと出したら、多分私たちにとってもメリットがあると個人的には思いますよ。

大山 ありがとうございます。そう思いますね。やっぱりカフェなりスタンドなりで、効率的にという方法だと急須では限界がある。よく「急須対ペットボトル」みたいな図式にされるんですが、実はそうじゃないんじゃないかと思いますね。

丸山 あと、ちょっとびっくりしたんですけど、10万トンが今8万トンなんですよね。なんかイメージでは10万トンが4万トンや5万トンになっちゃってるんじゃないかと思ったんですけど、やっぱり日本人は相変わらず飲んでるんだなと思いました。

大山 それはペットボトルの下支えというのがありますよね。

丸山 コーヒーの産地で広いところは、本当に10分の1になっている。そこを考えると日本人は本当にすごいなと今話を聞いて思っていました。

サイフォンの復権に急須の未来を見る

大山 では最後にサイフォンで同じ釜炒り茶を淹れさせていただきます。サイフォンというのはかつて日本の家庭にずいぶん普及していたんですね。

丸山 そう、僕の親の世代にサイフォンブームっていうか、いっぱいありますね。

蒸気圧で下から上にお湯を昇らせて茶葉(本来はコーヒー)を浸漬する。香りが引き立つ抽出方法とされる

大山 いったん廃りかけたものが、再び脚光を浴びて、復活してきている。実は今、家庭に急須がなくなりつつある。

丸山 ほお、万事休す(笑)。すみません、失礼いたしました。

大山 そうなんですね、本当に「万事急須」になってしまってはいけないと言われるんですが、本当に今、急須がなくなりつつある。でも、お茶を研究されているある方は、急須というのはお茶の淹れ方の一つの様式であって、そのブームが去ることによって減っていく、そしてまた復活してくる可能性があるとおっしゃっている。するとこのサイフォンもひとつ希望になるんじゃないかと。フローラルな香りや酸とかオイルのこととか、サイフォンというのはスペシャルティコーヒーに適している抽出方法だという合理性があって出てくる。急須がまた注目されるには、それなりの時間と必要なタイミングというのがあると思います。

丸山 私がコーヒーを始めた30年前にサイフォンはもう廃れ始めていて、あの当時、[ランブル]さんも[モカ]さんもネルだったし。サイフォンはなんとなく低く見られていたと思うんですよね。

サイフォンから一度茶海に移してグラスに注ぎ分けていく。湯気が立つほど熱く入っている

丸山 ある意味、これが一番強さ、さっきから話している強さっていうのがわかりやすい感じがしますね。

大山 高温抽出ですから香りを出すのにいい。それとバキュームするときにこの辺の香りもずっと中へもう一度吹き込む。香りっていうことからすると面白い抽出ができたんじゃないかなと思います。昨年3月には[丸山珈琲]さんのトップバリスタによる「サイフォンで淹れる玉露の魅力」というセミナーを開催していただきました。

丸山 ちょっと冷ましますね。今コーヒーと同じだと思った。サイフォンのコーヒーは温度が下がるにつれていろいろ出てくるので、ちょっと待ちます。こういうのってご家族とかお知り合いに出したりしてるんですか。どういう反応ですか。

大山 そうですね……あの、身内は「またか」みたいな(笑)。でも、先行の良さっていうのはあるのかなと思います。変なことをやっていく中で普及していく。それを業界としてリスペクトするとか方向性を保っていくっていうのが大事なんだなって感じています。

丸山 今日話していて思ったんですけど、日本茶でいろいろやられている中で大山さんは大真面目にやってらっしゃるところがすごいなって。本質的なところで考えていらっしゃるからすごいなって思います。

大山 それは、コーヒーの新しい扉を開いてきた丸山さんがなさっていることっていうのが目標というか、憧れを持っているので、少しでも近づいていきたいななんて思っています。

丸山 本気でやってらっしゃるのはもちろん知っていたんですが、ド直球の本気ですね。すごいです。

大山 憧れの丸山さんとこんな時間を持てて、今日は皆さんに感謝しています。

丸山 ありがとうございました。

最後に急須でもう一杯。ずっと聞いていたい特別なお話をありがとうございました!
この日、3種類の方法で淹れていただいた釜炒り茶。最後に改めて飲み比べてもらうと「やっぱり急須が一番好き。このお茶の凄さがわかったっていうか。急須すごい!」と感動した様子の丸山さんだった

丸山健太郎|Kentaro Maruyama
1968年生まれ。株式会社丸山珈琲代表取締役社長。COE(カップ・オブ・エクセレンス)国際審査員、ACE(Alliance for Coffee Excellence Inc.)名誉理事。「世界で最も多くの審査会に出席するカッパー」と呼ばれるほど、数々のコーヒー品評会・審査会で活躍。
maruyamacoffee.com

大山泰成|Yasunari Oyama
1962年生まれ。1970年創業の東京・下北沢[しもきた茶苑大山]の代表を務める。2000年に全国茶審査技術競技大会で優勝。現在日本に15人しかいない茶師十段の資格を2007年に取得。世界緑茶コンテストの審査員を務める他、様々な日本茶の美味しさを広める活動を行なっている。
shimokita-chaen.com

Photo: Junko Yoda (Jp Co., Ltd.)
Interview & Text: Yoshiki Tatezaki
Assistants: Emiko Izawa & Hikaru Yamaguchi

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