
4年ぶりの開催! あらゆるお茶文化が集うフェスティバル「Tea for Peace」レポート<前編>
2023.12.01 INTERVIEWイベント日本茶、再発見
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世田谷線の松陰神社前駅を降りると、どこか懐かしい空気が漂う商店街が広がっている。ただ懐かしいと言っても、古い店が並んでいるわけではない。昔ながらの八百屋や精肉店に混じり、通りにはスタイリッシュで個性豊かな個人店も多く軒を連ねており、新旧が心地よく調和している。そんな独自の文化が育まれている場所にすっと溶け込むように、2025年1月に日本茶カフェ「SOUEN」が新たにオープンした。
この[SOUEN]、実は表参道に本店を構える日本茶専門店[櫻井焙茶研究所]のカジュアルラインとして誕生したお店だ。[櫻井焙茶研究所]といえば「ロースト」と「ブレンド」を軸に、店内で焙煎したほうじ茶や、厳選された素材から生み出される四季折々のブレンド茶などを、洗練の空間で提供する茶房。お茶をコースで楽しむという斬新なスタイルは日本茶の新たな可能性を示す場所として、国内外から多くの人を惹きつけ、人気を博してきた。そんな[櫻井焙茶研究所]は、昨年の12月に10周年を迎え、次なる10年を踏み出す第一歩として、この[SOUEN]を世に生み出したのだった。
静謐な空間で一杯のお茶と向き合う時間を提供する[櫻井焙茶研究所]が仕掛ける、カジュアルスタイルの日本茶カフェとはどのような店舗なのだろうか。
[SOUEN]は前面がガラス張りとなっており、開放的な雰囲気を醸し出している。店内は、余白を活かしたディスプレイが心地よく空間を引き締めつつ、大小のテーブルとソファ、カウンターが混在していて、自然と自分の居場所が見つかりリラックスできるような空間になっている。
[SOUEN]の座席数は全部で30席ほど。比較的こぢんまりとしたカフェが多い松陰神社前エリアの中では、珍しく大きめの店と言えるだろう。さらに一部の座席には電源も設けられており、リモートワークでの利用も歓迎しているという。それぞれの時間帯でさまざまな人がお茶をかたわらに混じり合うようなイメージが湧いてくる。
このように、[櫻井焙茶研究所]のイメージからすると、一見対照的に感じられる[SOUEN]の空間。店長の今村明優美さんは「ハレとケ」という言葉を使って、両者のスタイルの違いを説明してくれた。
「櫻井焙茶研究所との棲み分けとして、私たちが意識しているのは『ハレとケ』という言葉です。櫻井焙茶研究所は『ハレ』の場。特別な空間で、何煎も重ねながら集中してお茶と向き合う、非日常的な体験を提供しています。対してSOUENは『ケ』。日常に寄り添い、一杯のお茶を思い思いのスタイルで自由に楽しんでもらう場所にしたいと思っています」
たしかに、こののんびりとした空気感の街にあって、肩肘張らずにお茶を飲める空間が[SOUEN]ということなのかもしれない。このような対照的な印象はありつつも、日本茶のブレンドの旗手たる[櫻井焙茶研究所]が培ってきた技術は[SOUEN]にもしっかりと受け継がれているという。
早速[SOUEN]のドリンクメニューから、おすすめのお茶をいただいてみることにした。
まずは一番のおすすめ、季節のブレンド茶から。この日は、釜炒り茶に青紫蘇と酢橘をブレンドしたもの。
釜炒り茶の華やかな火香と、鼻を抜ける青紫蘇のスッキリとした風味が見事に調和する一杯だ。酢橘も合わさることによって、ホットで飲んでもさっぱりとした味わいでまさにこれからの季節にふさわしい一杯。
この一杯は、「ブレンド」が店のコンセプトであることを象徴的に示している。「季節のブレンド茶」と称して、常時3種類のブレンド茶が用意されている。その3種類のお茶は、[櫻井焙茶研究所]が10年にわたり開発し続けてきたブレンドレシピの中から、[SOUEN]という店の雰囲気と季節感を考慮したものが選ばれている。定期的に入れ替わるため、訪れるたびに新しい味に出合えるのも嬉しいポイントだ。
釜炒り茶と青紫蘇と酢橘をブレンドしたお茶は、「No.38」というナンバリングが振られている。これはつまり38番目に開発されたブレンドという意味で、現在オリジナルのブレンドの数が430種類を超える[櫻井焙茶研究所]の歴史の中でも、初期につくられたものということになる。こうした技術の積み重ねを受け継ぎ、それをカジュアルに楽しめるのが[SOUEN]の魅力のひとつ。さらに、[SOUEN]からオリジナルの新たな「ブレンドの価値」も生まれている。
続いていただいたのは、深緑と透明の二層の色合いが美しい「抹茶のレモングラストニック」。濃厚な抹茶とトニックウォーターの炭酸の刺激が口の中で溶け合う新感覚の飲み心地だ。
これはエルダーフラワーのトニックウォーターに抹茶を注いだドリンクなのだが、作り方も見た目と同様独創性に溢れている。単純に抹茶を点てているのではなく、レモングラスを抽出したお湯で抹茶を点てているという。こうしてレモングラスの香りも絡み合うことで、より立体的なドリンクとなっている。
そしてさらに驚かされたのが、「抹茶とオーツミルク」だ。こちらも「抹茶のレモングラストニック」同様に、抹茶とオーツミルクのカラーリングに心惹かれるが、このドリンクではなんと抹茶を煎茶で点てているそうだ。
「お茶で抹茶を点てるのは研究所でもやっていないSOUENオリジナルの手法です。こうすることによって抹茶だけでは難しい香りの部分をより多彩に表現できるようになります。単に複数の素材を混ぜ合わせているのではない、ブレンドならではの付加価値がこれらのドリンクにはあると思います」
お湯以外の液体で抹茶を点てる。
そんなお茶の常識を軽々と打ち破る柔軟な発想に、さすが、と唸らせられる。
レモングラスと煎茶の香りが絡み合いながら、濃厚な抹茶とトニックウォーターの炭酸の刺激が口の中で溶け合う、立体的で新感覚の飲み心地だ。
そして[SOUEN]が力を入れているのはドリンクだけではない。フードもオリジナリティに富んだメニューが揃っている。今回いただいたのは、「粒餡と湯葉のミルフィーユ」。シロップに漬けた湯葉をオーブンでパリッと何枚か焼き上げ、その間にマスカルポーネのクリーム、粒餡、レモンカードを挟んだスイーツだ。餡と湯葉の上品な甘みにうっとりし、レモンの酸味がアクセントになって、全く飽きが来ない。
「このミルフィーユはお茶ととても合います。特にさっぱりとしたお茶と合うので、No.38のブレンド茶はこれからの時期にベストマッチかもしれません。ミルフィーユは通年で提供するのですが、季節ごとでマイナーチェンジすることも今考えています、他にも、季節の果物を活かしたスイーツなど、お茶と同様に季節感を味わえるメニューを用意していこうと思っています」
粒餡と湯葉のミルフィーユ。ほのかに甘い、パリパリ食感の湯葉をスプーンとフォークで崩しながら、全体を混ぜ合わせて食べていく
[櫻井焙茶研究所]が培ってきた“ブレンドの叡智”。日常に溶け込むカジュアルなスタイル。そして、お茶を通じて日本の季節を届けたいという想い。これらが絶妙に融合した[SOUEN]の在り方は、歴史とトレンドが共存し、独自の文化を育む松陰神社通り商店街に見事に調和しているように感じる。
この地域の日常に根差した店づくりはすでに完成しているように見える[SOUEN]だが、店を開いて半年足らずの中で、「日常に寄り添う」ということの新たな側面が見えてきたとスタッフたちは口を揃える。
後編では、[SOUEN]が大切にしている価値観や今後の展望について、より深く掘り下げていく。
SOUEN
東京都世田谷区若林3-17-11
平日11:00〜22:00
土曜日9:30〜22:00
日曜・祝日9:30〜19:00
水曜定休
https://www.instagram.com/souen_tea/
Photo by Tatsuya Hirota
Text by Rihei Hiraki
Edit by Yoshiki Tatezaki
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内容:フルセット(グラス3種、急須、茶漉し)
タイプ:茶器
内容:スリーブ×1種(素材 ポリエステル 100%)
タイプ:カスタムツール