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2020.06.30

お茶を愛し、
お茶に愛されたい男
片平次郎さんの使命
<前編>

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2020年6月後半。新型コロナウィルス感染拡大防止の緊急事態宣言が解消され、国内の往来が自由になった。真っ先にわたしたちが訪れたのは、静岡県清水の茶農家「豊好園」。

季節はちょうど、二番茶の収穫が始まるころ。1年ぶりに会う、3代目園主・片平次郎さんは、変わらずお茶を愛し、お茶に愛される熱い男だった。

お茶に愛されるお茶づくり

天気は予報の「雨ときどき止む」が大当たり。次郎さん自慢の「天空の茶園」から望む景色は、霧におおわれ幻想的な雰囲気。

「今日は朝から、一茶の晩(一番茶の摘み残しの番茶のこと)を製茶しています。夕方4時くらいには蒸し終わるかな〜」と、片平次郎さんは朗らかにテンポよく話しながら、早速お茶を淹れてくれた。

「手摘みのかぶせ茶の『おくゆたか』です。どうぞ」

出されたお茶をいただいて驚いた。丸い飲み口に、昆布とシイタケのあわせだしのような濃厚な旨味。後味にほんのりうっすらと苦味が残る。とっても繊細だが、旨味の衝撃が脳に記憶されているせいか、力強さも感じられる。ふわぁ〜、しあわせ。

かぶせ茶というのは、収穫の2週間ほど前から茶樹にネットをかけ、半日陰の中で育てたお茶のこと。「おくゆたか」は茶葉の品種。これはさらに、みる芽といって、まだ開ききっていない新芽を、ひとつひとつていねいに手で摘み取ったもの。

豊好園では、かぶせ茶を作る際には棚を張り茶樹とネットの空間を大切にしているという

「このお茶、旨味がありますよね。でも、めちゃめちゃ肥料をあげているわけではないんですよ。ぼくはどちらかというと、肥料をいっぱいやらない方。ぼくは、人間と茶樹が対等でないとイヤ」

「だから、旨みのために環境破壊してまでも肥料たっぷりのフォアグラみたいな茶葉はつくらないし、人間には良いであろうオーガニックもやらない。お茶に愛されたいですから。こだわりなんて一つもない。お茶がいつでもストレスなく心地よく過ごせるように畑を見守っています」

人間に置き換えて考えると簡単だ。ストレスなく心地よく過ごしたいなら、家は清潔な方がいいし、夏には冷房も必要。オーガニックということは、極端に言えば、冷房も扇風機もない部屋で熱帯夜を過ごすようなもの。

「お茶を栽培すると言う事は、少なからず環境を破壊していると言う事。いつまでもこの景色を見ていたいから持続可能な農業を心がけています。いかに環境を壊さずに、少ない農薬で、旨味がある日本茶をつくれるか追求しているんです。それが茶農家の仕事でしょ?」

「こだわりなんかない」と言いながらも、笑いながらさらりとその哲学の一端を聞かせてくれる次郎さん

茶農家・片平次郎の生き方

「ぼくは、お茶農家としてお茶をつくっているおかげで、今日もみなさんに会えたわけです。ほかにもいろんな出来事があって、それらがぼくの人生をすごく豊かにしてくれている。それがなぜかといったら、ぼくがお茶農家だから。お茶に感謝しなきゃいけないわけですよ。生産者ってだれもが、自分のところの作物を、わが子のように愛するでしょ。そんなのは当然だし、一方的に愛すればいいから楽なんです。でもぼくは、“お茶に愛されたい”。だからお茶のことに専念しています。愛されてる実感? うーん、けっこうプラス思考なんで、愛されてると思っていますよ。両想いです。『お前に育ててもらって幸せだよ』と言われていると信じて生きています。もしお茶に愛されてなかったら……、それはお茶の味にも出るだろうし、そうなったら楽しい人生じゃなくなりますよ」

味も質も上等なのは当たり前。おいしい日本茶をつくる人は日本中に大勢いる。そこにプラスアルファ、なぜ片平次郎の、豊好園のお茶がほしいのかを突き詰めると、生き方の違いだと次郎さんは語る。

「ぼくはお茶以外のことはやらないし、冬もずっと、お茶の仕事をしている。お茶農家さんて冬場は時間があるでしょ、と思われやすいんですけど、ぼくは冬は重機をレンタルして、作業性が悪い畑や崩れそうで危険な畑を整備している。改植というのですけど、重機を使って、茶樹を抜いて、土地を造成して、春が来たら植え直して。いま、どんどん畑を借りているんで、作業性の悪い畑だらけなんですよ。だから、ぜんぶ抜いて、地面をつくりなおして、また新たに植えて、の繰り返しです」

次郎さんの父親も、就農してから45年、毎年改植している。それを見て育ったせいか、冬に改植するのは当たり前だと思っているそう。「いまやっておけば5年後くらいには楽になるよね、と思って続けている」と言う。

「改植の何がいいかって、たとえば、いちばん行きたくない畑、あそこ危ねえんだよな、とか、あそこぜんぜんいいお茶できないんだよね、という畑が、つくり替えるといちばん行きたい畑になるんですよ。改植が終わって3年目に初めてのお茶がとれますが、感動しますよ。だから毎年毎年、改植して、行きたい畑を次々増やして。30年後には、今いちばん行きたかった畑がいちばん古い畑になって、また改植して新しくして。永遠に続けるんでしょうね」

まさに終わりのない改植ループ。お茶を愛し、お茶に愛されている自信がある次郎さんだからこそ、続けられるのだろう。最後に、1年の中でいちばん好きなお茶は?と聞くと。

「それはもう、新茶ですよ。いっちばん最初の一発目のお茶。『キターーーッ!』って感じ。茶葉が何であっても春を感じちゃうから! お茶の季節が来たー! 始まったー!ってゾクゾクする。4月の第1週目くらいまで重機に乗って改植していて、4月20日くらいから新茶の収穫が始まるんです。つらい冬の改植を乗り越えて、春の新茶を飲めるのは喜びでしかない」

「でも、それで終わりじゃなくて、7月後半に二番茶が終わったら、また重機を借りて、8月に改植します。ぼくの場合、お茶のお世話で一年が過ぎていきます。でもそれでいいんです、ぼくが愛して、ぼくを愛してくれるお茶とずっと一緒にいられるわけですから(笑)」

ある意味“お茶漬け”の一年、いや人生を送っている次郎さん。自分のお茶づくりに夢中である一方で、時代の流れから衰退する生産地の現状にも向き合っている。次郎さんが仲間と始めた〈茶農家集団ぐりむ〉は、そうした逆境を力強くポジティブに転換していく一つの光だ。SNSでもその活動ぶりが積極的に発信されているが、ぐりむの成り立ちと、次郎さんの思いを後編で聞いていく。

片平次郎|Jiro Katahira
お茶専業農家「豊好園」3代目園主。1984年静岡県清水の山間部・両河内生まれ。急峻な山間に広がる茶畑には、テラスを設け、天気のいい日には駿河湾や富士山が望める。見学ツアーも人気。3年前には、同世代の茶農家仲間と「茶農家集団ぐりむ」という法人を結成。茶畑の再生に力を注いでいる。
houkouen.org
instagram.com/japanesetea_houkouen (instagram)

Photo: Eisuke Asaoka
Text: Akane Yoshikawa
Edit: Yoshiki Tatezaki

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