• シングルオリジンの緑茶を愉しむ
    茶茶の間 直伝の
    お茶の淹れ方
    <前編>

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    単一農園、単一品種。「シングルオリジン」の緑茶

    表参道を一本入ったところに、知る人ぞ知る煎茶の聖地がある。2005年に和多田喜さんがオープンした[表参道 茶茶の間]だ。オスカル・ブレケルさんや[Satén japanese tea]の小山和裕さんなど、日本茶ニューウェーブに大きな影響を与えた名店として知られ、開店時から単一農園・単一品種すなわち「シングルオリジン」の緑茶を提供している。

    15年前、日本茶業界でシングルオリジンの緑茶を出すということはとても革新的だった。というのは、日本茶はブレンドを前提に流通が確立しているからだ。お茶農家は茶葉を収穫して、蒸し・揉み・乾燥までをする「荒茶」に仕上げる。お茶問屋は「荒茶」を仕入れ、ブレンドして仕上げ加工をして商品化する。

    「ブレンドすることによって、クオリティや味を安定させることができます。一方、シングルオリジンでは、土地の味(テロワール)――生産者さんがどういうコンセプトや考えでお茶を、さらにいえば畑を作っているかが見えてくるのです」と店主の和多田さんは教えてくれた。

    茶茶の間では、常時約30種類のシングルオリジンのお茶を、生産者、茶問屋と三位一体となって作っている。

    「テロワールを感じるお茶を作るには、いかにお茶の木と葉を健康に育てるか、そこが一番大事。そのうえで旨味が強いお茶にしたいのか、野性味あふれる香り重視のお茶にするのか、品種や土地、生産者さんの考えをもとに話し合い、その個性を生かした加工をしていきます」

    シングルオリジンの煎茶はどのように愉しめるのだろう? 和多田さんに聞くと、「では、熱湯と氷水という両極端の温度違いでの飲み比べをしてみましょう」とそれぞれの淹れ方を教えてくれることに。どちらも、シングルオリジン茶葉だからこそできる愉しみ方だという。

    熱湯で淹れて、香りを愉しむ

    煎茶の淹れ方は「ゆるめのお湯で」とよく言われる。だが、和多田さんがまず教えてくれたのは、熱湯で淹れる方法だ。

    「シングルオリジンの茶葉は高温で淹れると個性が出るんです。熱が加わることで、お茶の葉が開く速度が速まり、お茶の味や香りがくっきりと出てくる。浸出速度が速まることで、より香味成分やアミノ酸成分が出やすくなるんです」

    早速、実演していただく。用意するのは急須と湯呑み、それからお湯。2人分以上淹れる際には、茶海というピッチャーのようなものを用意する。

    茶海にお茶を淹れ、そこから各自の湯呑みに分ければ濃さのムラはなくなる

    和多田さんが使う急須は、底が平らになっている朱泥の磨きのかかった常滑焼のもの。これを「茶こころ急須」と呼んでいる(読み方は『ちゃごころきゅうす』)。「古くは中国茶の急須にこうした平底の急須があったようですが、私がたまたまその急須に出会い、シングルオリジンの煎茶にふさわしいと使い道を開拓しました」と振り返る。「お茶を淹れる中で、どうしてこの形がふさわしいか、お分かりいただけると思います。では、始めましょう」

    レシピは簡単で、茶葉4gに熱湯200ml(2人分)、浸出の時間は2分。

    茶葉を分量通りに量る。ちなみに、茶葉を入れている片口平皿は、「葉の雫」というオリジナル茶器。茶こころ急須の原案となった茶道具だ

    茶葉を急須に入れ、ゆっくり回しながら平らになじませる。そこに沸騰したお湯を200ml注ぐ。お茶の葉にまんべんなくお湯がいきわたるように。

    ここで蓋をせずに、約2分間おく。蓋をしないことで自然に湯温を下げる。口の広い急須だから、ぐっと温度を下げられる。

    「シングルオリジンの茶葉は熱湯で一番香りが立つと言えども、茶葉は熱に弱いというのもまた事実です。熱湯に晒しすぎるとお茶の風味が落ちてしまいます。この相反する特性のジレンマを解消するのが、口の広い茶こころ急須です」

    2分経ったら、急須の中の茶葉の開き具合いをしっかりと見てチェック。お湯を含んで茶葉が開きかけているくらいがちょうどいい。茶葉の状態を確認しやすいというのも、広口の急須の特長だ。

    蓋をして茶海にお茶を注ぎ入れる。水色は「金色透明」という緑茶本来の色

    急須を垂直に傾けて、最後の一滴までそっと落とす。急須を上下に振ったりはしない。

    「振り落とすと渋みが出ます。甘味の強いお菓子と合わせるなど、渋みを求める際にはそうした淹れ方もありますが、今回は余計なストレスを与えないで抽出しましょう」

    温めた器に入れて、さあどうぞ。

    今回淹れていただいたお茶は「秋津島」と「咲耶」という茶茶の間オリジナルの2種類。どちらも上記の同じレシピで淹れていただき、それぞれの味わいの違いを感じることができた。

    「やぶきたの可能性を追求した」という秋津島。静岡市葵区の、標高800mの高地で栽培された煎茶だ。香りの余韻が長く、口の中にいつまでも香りが漂う。高温で淹れたとき独特の渋みやえぐみは一切なく、青々とした香り、優しい甘みを感じ、清々しい残り香に包まれる。静かな衝撃を味わえる一品。味わいは軽やかで、香りの様々な要素を捉えることができる。熱湯ならではの香りの愉しみ方だ。

    咲耶は、静岡県浜松市にある「天竜」地区で作られたお茶葉で、しっかりとした後味と残香があるのが特徴。天竜区で栽培された香駿という品種を使って「さくらのような花の香り」をイメージして作り上げた季節のお茶。フローラルな香りの中に、パイナップルのようなトロピカルなニュアンスも感じられる。

    「お茶はいわば、フリーズドライ製法の先駆けのような作りをしています。春の新緑の香りをそのまま閉じ込めているんですよね。都会の部屋の中にいながらも、山の自然を香りを通して感じることができると思います」と、和多田さん。

    後編では、「味わい」にフィーチャーした淹れ方を紹介しつつ、和多田さんのお茶哲学に迫る。

    表参道 茶茶の間
    生産者、お茶問屋と対話を重ねながら、煎茶の楽しみをアップデートし続ける日本茶カフェ。カフェでいただけるオリジナルのお茶と洋菓子の組み合わせにファンも多いが、現在は臨時休業中。記事中で紹介した煎茶はオンラインショップで購入することができる。
    chachanoma.com
    www.instagram.com/chachanoma_omotesando (Instagram)

    Photo: Eisuke Asaoka
    Text: Reiko Kakimoto
    Edit: Yoshiki Tatezaki

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    シングルオリジンの緑茶を愉しむ 茶茶の間 直伝の お茶の淹れ方 <後編>

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    2020.04.28 日本茶、再発見

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