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2021.01.29 SPECIAL

【オードリー・タン】
「共通の価値」を生み出す、
“7つの流儀” 

2020年、新型コロナウイルスは世界中を混乱の渦に陥れた。 

 そんな中、“台湾の希望”として一躍世界的な脚光を浴びたのが、オードリー・タン(唐鳳)氏だ。 

 台湾の新型コロナ対策で、薬局の場所とマスクの在庫が一目で分かる地図アプリ「マスクマップ」をいち早く開発。マスクを巡る混乱から国民を救ったプロジェクトは、世界中から大きな注目を集めた。

 また、トランスジェンダーであることを公表し、IQ180の天才プログラマーでもあるなど、多彩な顔を持つタン氏の生い立ちも人々の関心を集めている。

 8歳でプログラミングを始め、14歳で中学校を中退。そして15歳で起業。その後、米アップルの顧問としてSiriの開発に携わり、33歳でビジネスの世界を退く。そして、35歳で台湾のIT大臣に史上最年少で入閣。IQ180、トランスジェンダー、ハッカー、詩人。

 一際異彩を放つタン氏だが、一人でコトを成し遂げようとするのではなく、人々との協調や共有を重んじることでも知られている。

 そして、人々との協調や共有のために、彼女の日常に寄り添う存在が“お茶”だという。

 オードリー・タン氏の仕事の流儀とは何か。2021年の幕開けとともに、新年特別インタビューをお届けする。

心のドアを開けて、周囲の意見を取り入れる

──オードリー・タンさんは、今回のインタビュー内容も含めて、日々のスケジュール、会議での発言、訪問者との会話など、すべてインターネット上に公開しています。政治的信条を表すキーワードの一つにも、「Radical Transparency(徹底的な透明性)」がありますが、あなたが人々との“共有”を重んじる理由とは?

おっしゃる通り、 「共有」は私にとってとても重要なテーマです。

 なぜなら、世界中の誰もが異なる立場を持っていますが、実は私たちは思っているよりも共通の価値観を持っている、と考えているからです。

 例えば、持続可能な開発目標(SDGs)、インクルージョン、イノベーション。これらに対して、世界中の多くの人が共通の価値観を持っているのではないでしょうか。

 基本的に人々はこれらの施策にポジティブな価値観を持っていますし、マイナスに捉える人は少ないはず。極端かもしれませんが、「地球を破壊してやろう」という意見は聞こえてこないのです。

 どうしてもマスメディアは対立構造に注目しがちで、双方の合意が難しい小さな側面にのみ焦点を当ててしまう。

 誰もが違う立場から異なる意見を持っていますが、重要なのは、「共通の価値観」をパズルのように組み合わせること。誰も取り残さない、透明化された社会づくりを私は実現したいのです。

──マスクマップも、シビックハッカー(市民エンジニア)の協力を得たことで、僅か3日で完成させ、マスクを巡る混乱から国民を救いました。

 私が、ソーシャルイノベーションを考える際に大切にしているのが、「一人でコトを成し遂げようとするのではなく、心のドアを開けて、人々の意見を取り入れること」です。

伊藤園のお茶を通じた出会いと文化を発信するコミュニティメディア「CHAGOCORO」が企画した「OchaSURU? Glass Kyu-su」でお茶を淹れながらインタビューに応じてくれた。

 大勢の人のために行うことは、大勢の人の助けを借りる必要があります。

 マスクマップも、トップダウンではなく、最前線にいる人たちの知恵を取り入れて改善していきました。市民と一体になって、プロジェクトを推進できたことが大きな要因でしょう。

 重要なのは市民の「信頼」。政府は市民を信じ、市民はその信頼に応える。徹底的な透明性の原則があったからこそ、成功を収めることができました。

「プロセス」の共有が、大きな成果につながる

 徹底的な透明性に基づくということは、「結果」だけではなく、自然に「プロセス」を人々に共有することができます。

 例えばマスクマップも、結果だけを共有した場合は、市民から何らかの反発が生まれたかもしれません。なぜなら、自分の意見を取り入れてもらう余地がなくなってしまうからです。

 しかし、「プロセス」を共有することで、批判的な意見も取り入れながら、より大きな成果につながるシステムを作ることができます。

 また、その結果に辿り着くまでの悩みや苦労を分かち合うことで相互理解が進み、周囲からの協力や応援を得ることもできるでしょう。

 日々の仕事においても、はじめから周囲とプロセスを共有することがとても重要です。

 スタート地点から周囲を「参加者」とし、協力を得ることでより大きな成果につながりやすくなるからです。

 マスクマップも同様に、事前に人々にプロジェクトの趣旨を共有したことで、反発を防ぎ、理解と協力を得ることができました。

──他者を理解し、受け入れることは簡単なことではありません。私たちは、いかに他者と向き合うべきでしょうか?

 大切なのは、相手を理解しようと努めること。

 攻防を放棄して「ゼロサム(一方が勝ち、一方が負ける)」を「共和(両者が共に勝つ)」にし、互いに納得できる共通認識を目指すことが重要です。

 ここで言う共通認識とは、完璧を求めることではありません。

 必要なのは、「ざっくりした合意」です。「ざっくりした合意」とは、「満足ではないにせよ、みんなが受け入れられる」状態になります。

 そういうコミュニケーションには、敗者も勝者もいません。一方が負ける世界を作らないことが大切です。

 異なる意見をパズルのように組み合わせることで、理想のコミュニケーションに近づくことができるはずです。

誰しも「共通の価値観」を持っている

──あなたのように、他者を寛容的に受け入れるために、私たちにできることはありますか?

 そもそも、私の役割は非常に明確で、様々な異なる立場の人たちに対して、共通の価値観を見つけるお手伝いをすることです。これを私は、「転訳者」と表現しています。

 いったん共通の価値観が見つかれば、異なるやり方の中から、その人々が受け入れられるような新しいイノベーションが生まれます。

 同じように、似たような経験や考えを持っている組織に留まるのではなく、異なる文化や世代と交流することをオススメします。

 似たようなコミュニティの中にいても、結局は同じ意見が反復しているだけのことは多い。異なる立場の人と触れ合うことで、自ら他者を受け入れる経験を、自然に積むこともできるはずです。

 例えばマスクマップアプリは、主に国家プロジェクトを担う開発者と、市民エンジニアによる共同プロジェクトでした。

 一方は比較的伝統的な開発手法で、もう一方の開発手法はアジャイル式です。すると、開発手法で衝突が起きるかもしれません。

 しかし立ち返ると、お互いの立場は異なりますが、実際は共通の価値観を持っています。誰もが民衆の平和を願い、マスクを無事に入手できることを望んでいる、という共通の価値観です。

 共通の価値観を持っているのであれば、それぞれの良さを気づかせ、役割分担させる。そして、「転訳者」がお互いの理解を促し、ざっくりとした合意形成に貢献する。

 これにより、誰しも「共通の価値観や、普遍的な意見がある」ことを発見できます。それが、正しいか間違いかではなく、「色々な思考を知っている」ことが創造性にもつながるはずです。

──ご自身は、相互理解を重視するという考えに至るまでに、何かきっかけや影響を受けた出来事はありますか?

 インターネットとの出会いは、私に大きな影響をもたらしました。はじめての出会いは、1993年の12歳の頃です。

 インターネットがなかった時代の「情報」は、孤立した山に集積されているだけで、山脈のようにはつながっていませんでした。

 しかし、インターネットが生まれたことで、まったく異なる思考や背景を持った人々ともつながれるようになった。ネットには、いかなる強制力もないし、特定のリーダーもいない。

 非常に透明性の高い世界で、政治の世界にこそ必要な価値観であると感じたことを覚えています。インターネットを通じて、人種や国籍、年齢や性別も知らない人と目的を共有し協力する中で、自らの居場所を見出すことができたのです。

 また、当時「プロジェクト・グーテンベルク(世界的な古典の電子化・公開運動)」というプロジェクトにも参加していました。

 これは、著者の死後一定期間が経過して著作権が切れた名作などを全文電子化して、インターネット上で公開するというプロジェクトです。

 当時、外国書籍の翻訳版を中心に読んでいましたが、私はこれらの原書を読んでみたいと思っていました。しかし、入手はとても難しいものでした。

 そんな時、「プロジェクト・グーテンベルク」を知り、無料でダウンロードできる作品も多かったので、それらの作品を電子書籍として読むようになったのです。

 そして、そのうち私自身もプロジェクトに参加するようになりました。非常に多くの古典や書籍を読み、様々な思想を無料で学べましたね。

 それらの経験から、「飲水思源(井戸の水を飲む際には、井戸を掘った人の苦労を思え)」ということわざがあるように、他人からの恩は恩で返したい、と思うようになりました。

 ですから、将来の世代にも私の発言を無料でオープンに展開している。私が学んだことを、自らのものにしてほしいのです。

お茶を淹れることで、感情を整理する

──自分や他者の違いを認め、受け入れるためには、自らと向き合う時間も必要です。多忙な日々の中で、どのように自らと向き合う時間を作っていますか?

 そうですね。私も人間なので、感情の整理に時間を要することがあります。そんな時、私は“お茶”を淹れるんです。

 例えばネットで不快な言葉を見つけた時は、2種類の茶葉を組み合わせて、新しい味を生み出します。

 まだ経験したことのない新しい味を経験することで、怒りが上書きされるんです。それから気持ちが少し収まるのを待ち、感情を整理しながら、聴いたことのない音楽をかけたりする。

 2種類のお茶を組み合わせることは、創造性を生み出すという意味で、小さなイノベーションでもあると考えています。

──他には、どんなタイミングでお茶を飲みますか?

 私のキッチンには約20種類のお茶があります。朝は活力が出るお茶を飲んだり、夜は眠りにつきやすいお茶を飲んだりしますね。

 また、私の習慣に「25分間働き、5分間休むこと」があります。

 この25分間は、携帯電話をマナーモードにして、仕事に集中します。そして5分間の休憩で、お茶を淹れ、飲み、落ち着きを取り戻す。

 このように、お茶は日常に欠かせない身近な存在なのです。

 私にとってお茶を楽しむという行為は、「他人と会話する状態を整えるための儀式」でもある。台湾では、お茶は他人との交流や意見を交換し合うために飲む機会が多いです。

 例えばいま私たちも会話をしながら、お茶を楽しんでいますよね。同じように台湾では、政治家や一般人の立場に関わらず、お茶を通じて対話をすることが多い。

 異なる立場にいる人同士が、お茶を介して「共通の価値」を見出しているのです。

 また、対立が生まれそうな時には、「お茶でも一杯どうですか」というコミュニケーションをすることもあります。

 私にとって、お茶はテクノロジーと同様に、人々の共感を生み出すツールだと考えています。

 お茶を介したコミュニケーションにより、共通の価値観を見出す。そこから、自然にお互いの助け合いが生まれていく。

 お茶を淹れたり飲んだりすることは、私が目指す「誰も取り残さない社会」に必要な所作でもあります。

 いつか日本のみなさんとも、お茶をご一緒できる日を楽しみにしています。

制作:NewsPicks Brand Design

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