• 「天空の茶園」
    豊好園・片平次郎さんの
    お茶とライフ<後編>

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    毎日を100点で生きるお茶ライフ

    「天空の茶園」豊好園の片平次郎さんを訪ねた夏の日。日差しを遮るものは時折流れてくる雲しかなく、麓から上ってくる風が気持ち良かった。

    前編に引き続き、次郎さんのライフを探るために、「次郎さんはどんなときにお茶を飲むんだろう」という素朴な疑問を投げかけてみた。

    「僕がお茶を飲むとき? 親父がお茶大好きなので、朝昼晩必ずごはんのときは全員分淹れるんです。普通にごはん食べたいからすぐ食べちゃうじゃないですか。そうすると『お茶も淹れねえのに食べてやがる』みたいに怒るんです。それが染み付いているので、今も朝昼晩は飲みます。あと、僕は生の荒茶(仕上げ加工前の茶葉)を持っているので、それを電子レンジで火入れをするんです。そういうのはただの自己満足だと思うんですけど、同じ淹れるんだったら、ひと手間かけて淹れたほうが楽しいかなと。毎日違う顔を見せてくれるので、そういう楽しみですね。疲れたからとか、そういうのはないです。喉が渇いたな、じゃあお茶淹れよう、どうせ淹れるんなら、ひと手間かけてみよう、みたいな。火を入れすぎてもほうじになるだけなので、そうなってもまあいいや、これはこれでみたいな、そんな感じ」

    お茶大好きな父・豊さんのもとで育ち、自身も同じ茶農家の道を歩む次郎さんの「お茶を楽しむ」という考え方は、すっと自然に受け取られると同時に少し羨ましい気持ちもする。何かを楽しむことができる人の人生はいつだって豊かに感じられるものだ。

    さらに、次郎さんにとってお茶はライフだとつづける。

    「僕、ライフだと思っているんです、お茶が。だから、一年中仕事をしているつもりもないし、かといって休んでいるつもりもない。今日みたいに昼に取材があったり夜会議があったりというような予定はなんとなくあるんですけど、ふわふわしている。天候も時によって違うし、朝起きてから寝るまで、その一日をシンプルに生きているという。だからもう、“お茶に生きている”っていうことです」

    「それで、一日をすごく大事にするようにしています。というのも、一昨年じいさんが急に亡くなったんです。93歳だったかな。ピンピンコロリであっという間に死んじゃったんです。その半年後にばあさんが追うように、本当に元気なまま亡くなっちゃって。それから死をすごく意識するようになったんです。『できることは今やっておかないといかんな』ということで、自然と一日や一瞬を100点で考えるようになったんです。朝ちゃんと起きて100点、そこからずっと100点、みたいな。面白い出会いがあったら105点にすればいいので。基本は100点で寝るようにしているんです。僕は15年間お茶をやっているので、一番茶はまだ15回しかないんです。65歳までやるとするとあと30年。もう3分の1はやってきちゃったので、『一番茶はあと30回しかないんだ』ということをすごく思うようになりました。大変なのは、たぶん家族です。お休みもないし。冬は冬でずっと茶の木を抜いて、造成して、また植えたりしていますし」

    お茶の人生を生き、日々お茶づくりを続けているが、そこに安易な満足はなく残された打席数を意識するのは、高い志が故だろう。完璧を追い求めるストイックさも感じられるが、お茶が好きでそのライフを楽しんでいるという純粋さが溢れ出る次郎さんはとても魅力的なのだった。

    「僕は、お茶だけで生きたいんですよ。なので、ここ(高級茶)にいたいわけです。でも、ここにいるのは大変なんで、こっち(大量生産)もやるんですよ。そこで、仲間とともに『茶農家集団ぐりむ』っていう法人を作りました。それぞれが社員、それぞれが個人事業主で、自分たちが思い描く高級茶を作り、それぞれの茶園を名乗る。それ以外のお茶をみんなで⼀緒にたくさんやることによって⽣活ができる。おまけに農地も守れる」

    お茶のライフを豊かに続けていくために、しなければいけないことをしっかりと見つめながら次郎さんは生きている。生まれ育った土地と歴史への敬意と未来への決意を込めて。

    「静岡はお茶やめちゃいけないんですよ、お茶の町なんで」

    片平次郎
    1984年生まれ。静岡県の中央に位置する山間部、両河内で日本茶の栽培・製造販売を行なう豊好園の3代目園主。標高350mの斜面に広がる茶畑からは早朝に広がる雲海が望め、見学ツアーも人気となっている。

    豊好園:http://houkouen.org/
    茶農家集団ぐりむ:
    https://www.facebook.com/gurimu170/
    https://www.instagram.com/gurimu170/

    Photo: Shingo Wakagi
    Text: Yoshiki Tatezaki

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