• 冬の茶づくりを訪ねて静岡・牧之原[駄農園]へ
    つくることにひたすらまっすぐな夫妻の決心に出会う<前編>

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    雪のニュースも多く、しっかりと冷え込んだ今年の冬。冬の茶畑はといえば、来るべき春に備えて枝を刈りそろえたり、土を肥やしたりと、準備期間となっているところが多い。

    今回訪れた静岡県牧之原市の[駄農園]の茶畑も一見したところ同じような状況だ。昨年10月の終わりに一度茶の木を刈りそろえてから木は“冬眠中”で、4月から5月の一番茶に向けて有機肥料を与えたり藁を敷いたりして、土壌のメンテナンスが日々行われている。

    「ここのところ猪が夜中に入ってきて、土を掘っちゃうんですよ。落とし穴くらいボコボコに掘るのでけっこう危ないんです」

    笑顔でそう話すのは髙塚朋子さん。3代目園主で夫の髙塚貞夫さんと二人三脚で[駄農園]を支えている。管理する茶畑の広さは220アールほど。東京ドームのおよそ半分というスケールの自然を、人の手二人分で管理するのは骨が折れるはずだ。

    メインの畑から少し離れたところには自然仕立ての畑がある。べにふうきという品種の向こうには富士山が望める

    「手を抜こうと思えばいくらでも抜けるのですが」と話すのは貞夫さん。「やることはいくらでもあります。この時期は二人とも別の仕事もしているのでほぼほぼ休みなしです。(お茶づくりで)どうしても新しいことがやりたくなっちゃうので、冬の間にそのためのスペースを整理したり機械を動かしたり、次から次へとやることが増えちゃう」。

    お茶づくりに休みはない。そう言いつつも終始笑顔の髙塚さん。それは、ある決心があってこその笑顔なのだが、それがわかるのはこの日後半での話。

    まず見学させてもらうことになっていたのは[駄農園]特製のほうじ茶づくりだ。

    冬にもつくりつづける
    ハンドメイド釜ほうじ茶

    茶畑を案内していただいた後、製茶機械が並ぶ建物に招いていただいた。先ほど髙塚さんが言っていた「別の仕事」というのは、製茶機械の据付けや修理を行う会社の仕事だという。この建物には他から譲り受けて整備中の機械などが並んでいる。

    寒風に当たった後のほうじ茶が滲みる。

    このほうじ茶がとてもユニークなつくられ方をする。特蒸し茶として販売もしている煎茶葉を大きな釜の中に入れて、船を漕ぐパドルのようなT字の棒でゆっくりと混ぜながら、ゆっくりゆっくりと手で焙じていく。

    釜は、元々干し芋を蒸すためのお湯を沸かす釜として使われていたもので知人から譲り受けたのだそう。ガス台が組み込まれた土台は“アルバイト先”の機械工場から廃材を引き取って髙塚さんが造り上げた。釜を斜めに設置することで作業しやすい設計になっている。T字の棒も手造りで、何から何まで「ハンドメイドほうじ茶」だ。

    「ほうじ茶のつくり方を習ったわけではないし、父親からああしろこうしろって言われたこともなくて。ただ唯一、『釜炒りでやるよ』って言ったら、『焦がすな』と言われただけで、あとは自分で試行錯誤してきました。一昨年、親戚から釜炒りの機械をもらったんですよ。これでやれば楽になると期待したんですけど、5〜6回やってみてもうまくいかなくて、妻からはダメ出しが(笑)。妻はほうじ茶といえばうちのくらいしか飲んだことがないから、ちょっと違うと『これじゃダメだ』って」

    投入された3キロの茶葉を左下から右上へ、やさしく持ち上げては釜に戻す。時に棒を持ち替えて右下から左上へ。寄せては返す波のような穏やかな音が聞こえている。

    「これでひたすら3時間。だんだんと色が変わってきたり、煙が出てきたりしますよ」と朋子さんが隣りで教えてくれる。

    休憩することも交代することもなく、茶葉を見つめて混ぜつづける3時間。普段は、陽の明るいうちに外でできる作業をし、夕方からこのほうじ茶づくりが始まるのだという。雨が降っていたり、降った後は湿気が影響して感覚が合わなくなってしまってできないという。

    それだけ繊細で、根気がいる仕事ということ。髙塚さんだからこそつくれるお茶だといえるだろう。

    音声ボタンを押して、茶葉を焙じる音もぜひお聴きください

    「でもけっこう失敗しますよ。3回に2回くらいは失敗しちゃいますね」と貞夫さん。

    なるほど、野球と同じく打率3割が現実的な達成目標のラインということか。髙塚さん夫妻にしかわからない成功と失敗の境目があることは想像できる。

    「3回のうち2回失敗と言いましたけど、本当に、自分たちで飲んでみて『ん?』となる出来だったら売らないんです。畑に還して循環はさせるんですけど、世には出せない」

    朋子さんの言葉に正直驚く。3時間かかりっきりで焙じても、半分以上はお蔵入りになってしまう?

    焙じる段階に至るまでの手間暇もあるというのに。

    それから、ということは、今回も飲ませてもらえない可能性があるということですか……?

    「そうかもしれないです」と笑みをこぼす朋子さん。

    「さぁ、どうなるか……」手を止めずにつぶやく貞夫さん。

    どこかで「飲めて当たり前」という思いがあったかもしれないと思い知らされる。
    3時間の静かな戦いに臨む髙塚さんをよりリアルに感じて、応援しなければと思う。

    果たして、ほうじ茶はうまくいくのか……。後編につづきます。

    駄農園|Danouen
    1952年、祖父の髙塚吾郎さんの代から70年つづく家族経営の茶農園。一大産地の牧之原において珍しく代々多品種栽培を行なってきた他、釜炒り茶や紅茶など独自のお茶づくりを行う。3代目の貞夫さんと妻の朋子さんは農業大学で出会い、現在ほぼ二人で手摘みの釜炒り茶から深蒸し茶、紅茶、ほうじ茶まで幅広いお茶づくりを続けている。月2回ペースで東京・世田谷代田朝市に参加し直接茶葉の販売をする他、オンラインでの販売を行なっている。
    danouen.comdanouen.stores.jp
    instagram.com/danouen.greenteafarm

    Photo & Video: Taro Oota
    Text & Edit: Yoshiki Tatezaki

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