• お茶が繋ぐ命と料理
    茶禅華の静謐な
    ティーペアリング
    <前編>

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    和魂漢才の料理に寄り添うお茶

    「和魂漢才」——。日本固有の精神と中国伝来の学の調和を示すこの言葉は、東京・南麻布の中国料理店[茶禅華(さぜんか)]の進む道を端的に示すキーワードであり、料理長・川田智也さん自身を説明する言葉としても、ぴたりと当てはまる。日本の食材の味わいを、中国料理の技法を使って鮮やかに浮かび上がらせる。中国料理店[麻布長江」を副料理長まで務めた後に[日本料理 龍吟」で修業というキャリアを経て、ここ日本でしか表現できない中国料理を作り上げているのだ。

    2017年のオープン直後から、独特の世界観のある美しい料理と高い完成度のサービスを提供。食通たちが何度も足を運ぶトップレストランとして高く支持されている同店では、開店時からあるティーペアリングも人気だ。

    「趣味の延長みたいなものですね。僕自身、お酒があまり強くなくて、飲める人も飲めない人も気兼ねなく楽しめるノンアルコールのペアリングがあるといいなと思っていました。中国茶を中心に日本茶も織り交ぜながら、8〜10種類のお茶を様々な抽出法、温度帯でお出ししています。普段アルコールを召し上がる方でも『今日はティーペアリングにしようかな』など積極的に楽しんでいただけています」

    お茶で人生が変わった

    お茶に目覚めたのは料理学校を卒業して中国料理店 麻布長江に入った20歳の頃。まだ見習いで何もできなかった川田さんに、料理長から「せめて、最後に出すお茶をおいしく淹れるくらいはやってみろ」とアドバイスされたのがきっかけだった。

    「そこで中国茶のお店を回って飲み始めたら、お茶ってこんなにおいしいんだ!とすっかり虜になりました」

    そして20代中盤、働きすぎで身体を壊し、食べ物が喉を通らなくなったこともあった。

    「そんな時でも、お茶だけは身体にすっとなじみ、美味しく感じられたんです。お茶が僕を生かしてくれました。お店の名前に“茶”の字を入れているのも、僕にとってそれほどに大切なものだからです」

    コースの中から数品の料理とお茶の組み合わせを引き出し、ペアリングする際の発想を聞いた。

    クラゲのスダチ和えと、京都産・玉露氷出し

    茶禅華のティーペアリングでは、料理に合わせて8〜10種類のお茶が提供されるが、うち2〜3種類は日本茶を組み合わせるのだそう。「日本茶の種類は意識して絞り込んでいます」と川田さん。

    あえて絞り込むことで、味わいの対比が生まれ、日本茶の鮮烈な印象を残せるのだという。「日本茶の独特な旨みは、中国茶にはない要素ですね。中国茶はすっきりとした中に奥行きを広げる味の構成。対して日本茶は口の中を甘やかにしてくれるので、調味料の感覚として合わせることもあります」

    氷水で48時間かけて抽出した京都産の甘露(玉露)。その文字通り、甘露でなめらか。クラゲは生姜や長ネギ、そしてスダチであえて葱油鶏風の味わい

    スダチの果実をくり抜いて容器にし、クラゲの和え物を詰めた。蓋のスダチの果汁を軽く絞っていただく。クラゲが纏った酸や甘み、軽快な食感が、玉露の甘露な味わいやなめらかな喉ごしとシンクロする。お茶のもつ、海苔のようなミネラル感もクラゲの味わいを下支えしている。

    「日本の緑茶は低温で抽出することが多いですね。こちらは800mlの水に対して14gの茶葉を入れ、氷出しに近い温度帯の冷凍庫で48時間抽出しています。茶葉の量はやや多いくらいでしょうか。低温で抽出することで、滑らかな口当たりでありながら、出汁のような長い余韻が生まれます」と川田さん。

    蛤、蕗の薹の春巻きと東方美人茶

    台湾の青茶(烏龍茶)の一種である東方美人茶。提供前に炭酸を入れてスパークリング茶に。蛤、しんじょう、蕗の薹が入った春巻きと

    季節の春巻きは茶禅華の常連客が楽しみにしている定番の一品。夏は鮎、秋は秋刀魚、冬は蟹など、旬を感じる食材をクリスピーな皮ごとかぶりつく瞬間は、至福のひと時だ。

    今回は春の訪れを感じる組み合わせ。ふわりと柔らかなしんじょうは、日本料理の仕立てで作られている。食べ進めると最後に現れるのは蕗の薹の苦味。雪間に現れた蕗の薹の景色が見えるようだ。

    合わせたのは東方美人茶。48度のぬるま湯で30分間置いたのち、氷で冷却して40時間。提供する当日に、炭酸を入れてスパークリングティーに仕立てている。果実や蜜のような香りが特徴の東方美人茶は、炭酸を含ませることで上質のシャンパーニュのような味わいに。蛤の旨味や淡いしんじょうの味わいに厚みを与え、蕗の薹の香りを優しく洗い流してくれる。

    川田さんのティーペアリングはまるでオーケストラの演奏のようだ。一つひとつの完成度は高いままに、重なりあうことで別次元の壮大な世界へと広げている。後編ではさらにペアリングを紹介しながら、川田さんのペアリング哲学に迫る。

    茶禅華
    “和魂漢才”の心が随所に感じられる、唯一無二の中国料理店。2017年のオープン以来、独創的な料理とホスピタリティー溢れるサービスに魅せられた食通たちの足が絶えない。料理は静謐でありながら大胆。味わいは淡く奥深い。
    季節のおまかせコース(約15品)23,000円〜
    ティーペアリング(約8種類)8,000円〜
    sazenka.com

    Photo: Masaharu Hatta
    Text: Reiko Kakimoto
    Edit: Yoshiki Tatezaki

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