寿司店・酢飯屋と
八女茶くま園による
「一魚一茶」<前編>

寿司店・酢飯屋と
八女茶くま園による
「一魚一茶」<前編>

2019.11.22

想像をこえてくる。寿司とお茶、至高のマッチアップ

東京・文京区、江戸川橋駅は神田川の中流付近に位置する。池袋の喧騒からすっかり離れ飯田橋に差しかかろうとするこの江戸川橋で、2008年から「新しい寿司体験」を提供するのが寿司店[酢飯屋]だ。

そのスローガンの通り、店主・岡田大介さんが握る寿司は他とは一味違う。日本各地の食を巡り、郷土独特の寿司などを発掘したり、歴史を遡り江戸時代の寿司を再現したりと、縦横無尽な創作活動ともいえる寿司づくりをしている。そんな新しい寿司体験を提供する一環として、異なる寿司に合う醤油を追究する「一魚一醤」や日本酒との「一魚一酒」などのイベントも催されている。

今回参加させていただいたのは4年ぶり3回目の開催となった「一魚一茶」。この寿司にはどのお茶が一番合うのか?という問いに、福岡県の[八女茶くま園]園主の中谷一美さんと挑んだ。まずは、この日登場した10組の寿司とお茶を並べてみよう。

1組目:イシダイ/碾茶(てんちゃ)
2組目:生コハダ/八女伝統本玉露(氷出し)
3組目:ホタテ醤油麹のせ/燻製紅茶
4組目:ハタハタ寿司/ほうじ茶
5組目:キビナゴのおから寿司/焼き茶
6組目:ビワマス ケイパーで/抹茶
7組目:キンメダイの生粕漬け黒米握り/おぼろ紅茶
8組目:和牛握り/八女伝統本玉露(氷水出し)
9組目:納豆巻き/やぶきた煎茶
10組目:煮アナゴ/さえみどり煎茶

「最初の3分の2ぐらいはまずお寿司を楽しんでください。深く噛みながらお寿司の味を堪能していただき、残りの3分の1ぐらい、飲み込む前にお茶で追いかけていただいて、どう味が転換するのかを感じてみてください」という岡田さんのアドバイスを受け、10名ほどの参加者は、時に頷きながら時に唸りながら、箸と杯を進めていった。

今回はその中から6種類の組み合わせをご紹介していきたい。


1品目、イシダイの握り。醤油はすでに施されており、ベストの味わいがいただける

最初の寿司はイシダイ。磯の魚でクセがあるといわれるが、若くて臭みが出る前の、それでいて脂をしっかり蓄えたちょうどよいものを握りに。合わせるのは碾茶と呼ばれる、抹茶を挽く前のお茶の葉。強い旨味の特徴を引き出すために少し冷ましたお湯でいれるのがセオリーだが、香りを引き出すことを目的に「変則的な」方法でいれられた。「日本茶のお仕事をされている方には絶対だめといわれるいれ方です」と言いながら、中谷さんは理科の実験さながらに碾茶をビーカーの中で煮出す。煎茶道の流派のひとつ黄檗売茶(おうばくばいさ)流の点前を参考にしたものだ。鮮やかな緑のお茶で香りがいい一方で、イシダイの上品な旨味を引き立てるすっきりとした飲み口だ。イシダイの舌触りや歯ごたえ、旨味を感じながら、お茶の香りと味を感じていく。


アルコールランプにビーカーというセットで碾茶をいれる。グツグツと沸き出したら頃合い

つづいての寿司は生コハダ。酢締めで食されることの多いコハダだが、その理由は足の早い魚を美味しく食べるための古くからの知恵であること、そして今日の輸送技術の向上により生でも美味しく食べられるということを学びながらいただく。隠し包丁がもたらすカドの快い食感と、赤酢のシャリにショウガのアクセントと完璧な完成度。合わせるのは、八女伝統本玉露の氷出し。急須からぽたぽたと数滴ずつ注ぎ、飲むというより舐めるようにいただくのだが、とても強い香りと濃縮された味に驚く。一方で、渋さが全く感じられず、数滴でもとても満たされる一杯だ。醤油と生姜と赤酢の複雑な香りと甘み・酸味に、玉露の強い旨みが重なることで口の中にはあとを引く美味しさが残る。

コハダはきれいに切れ目が入れられ、食感とともに醤油とショウガの味わいが多面的に感じられる
八女伝統本玉露を注ぐ。掌に収まる急須はこの席にも参加した[てぽた]の松尾さんによるもの

ホタテの握りの上には自家製の醤油麹がのる。醤油よりも甘みがありホタテと抜群の相性。ここで合わせるのは、燻製の紅茶。「中国にラプサンスーチョンという(燻製の)お茶がありまして、自分の茶園の名前をとってクマサンスーチョンと呼んだりしていますが、商品化の予定はまったくございません(中谷さん)」というユーモラスでユニークなお茶。引き立てあうというマリアージュの方法もあるが、燻製香という全く別の軸でホタテの味わいを変えてしまうのが面白い。

ふっくらとシャリを覆う大船渡産のホタテ。醤油麹ペーストを乗せて
桜チップで燻製された紅茶は香りが急須につかないようにボトルに用意された

キビナゴのおから寿司は手鞠寿司のようなかわいい姿。豆乳やショウガを混ぜてあるおからがシャリの代わりで、そこに「ほっかむり」のように乗るのは酢締めのキビナゴ。リンゴを皮ごとピュレ状にしたものがトッピングとなり、甘さを添える。ここでは、焼き茶という珍しいお茶が合わせられた。先ほどのアルコールランプの直火で茶葉を炙った上で、いれるというもの。中谷さんによれば、これはお茶農家独自の飲み方だそう。お茶の木はそばにあるけれど、製茶された茶葉がない時に、このように炙って飲むことがあったのだという。酸味と甘さとショウガのアクセントのバランスに、香ばしい味わいが合う、ここでしか味わえない組み合わせだ。

高知・宿毛の郷土寿司であるキビナゴのおから寿司。リンゴのトッピングは酢飯屋流
焼き茶のための茶葉を炙っていく。「炙り加減は気分で」家庭で親しまれた飲み方を体感できる

独創的な組み合わせがつづき、8品目に運ばれたのは和牛ローストビーフの握り。群馬県渋川市で一頭一頭名前をつけて丁寧に育てられる牛を、自家製のタレでいただく。「急須をご覧いただくとお気づきになるかと思いますが、生コハダの時に氷出しにした本玉露です。ここではそれにお水と氷をちょっと足しましてさわやかに、でも甘くお出ししております。これもちょっとお肉に旨味を加えてくれるんじゃないかというような狙いです。今度はたくさんいれますのでたっぷりとお楽しみください(中谷さん)」牛肉にさらなる旨味を加えるという組み合わせの妙とともに、お茶はいれ方で味わいや楽しみ方が変えられるという好例を感じさせてもらえた。

酢飯屋で使う牛肉はすべて群馬県渋川市の石坂牧場から一頭買いしているもの
八女伝統本玉露を今度は氷水出しで

最後の一品は煮アナゴの握り。柔らかくかつふんわりと煮たアナゴの上には柚子の皮が乗り芳しい香りだ。これにあわせるのは「さえみどり」の煎茶の氷水出し。甘みと心地よい渋みのバランスがよいさえみどりは、甘い煮アナゴに添いながらも苦みを補完する。このさえみどりの2煎目には、お湯を差してあがりもいただくことができた。

一口目で甘さと柚子の香りがきれいに調和する
さえみどりは一年の中で早い時期に摘まれる早生品種で、主に九州で育てられる

1010色のお寿司と1010色のお茶のコースは、多様な味の組み合わせを次々と体感させ、あっという間に過ぎた。寿司もお茶もそれぞれで味わっても非常に美味しい逸品だが、ふたつを合わせることでの味の変化をじっくりと楽しむことができた。

「すんなりと決まった組み合わせはなかった」と岡田さんが言うように、10種類の寿司に対してさまざまなお茶の種類、そしていれ方を試したそうだ。中谷さんは「温かいお茶だけではなくて、冷たいお茶も、お茶だからできる提供の仕方も今回ご提案したいと思った」と語り、お茶のさまざまな表情と楽しさを体験できる会となった。


【酢飯屋】
東京都文京区江戸川橋駅近く、完全紹介・予約制の寿司屋。ランチとディナーで角度の違うお寿司を提案。同じ場所で日中営業している[suido café]では、日本各地の作家の器で楽しめるスイーツや自家製ジュースなども提供。さまざまな作家の個展を行なう[水道ギャラリー]も併設。「やりたいことは、やってみる」を基本理念とする店主・岡田大介氏は、日本各地の郷土寿司を習うことをライフワークとする。
www.sumeshiya.com
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【八女茶くま園】
福岡県八女市でお茶の生産・製造・流通・呈茶まで一貫して手がける。久間園、おぼろ夢茶房という茶園で育てられる茶葉は、全国茶品評会一等一席(農林水産大臣賞)受賞、日本茶AWARD入賞など高い実績を持つ。扱うお茶の種類は、煎茶、伝統本玉露、抹茶、紅茶。良い土を耕すところから良い一服をもたらすまで、丁寧なお茶づくりにこだわる。
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Photo: Yoshimi Kikuchi|Text: Yoshiki Tatezaki

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