菓子屋ここのつで、
味わうは “時間芸術”
<後編>

菓子屋ここのつで、
味わうは “時間芸術”
<後編>

2019.11.19

ここのつの茶寮コースに込められた想いとは

[菓子屋ここのつ]でいただく約2時間の和菓子のコースは、単なる食事ではなく、まさに体験と呼ぶべきもの。陽の傾きにもはっと気がつき、自分自身の感覚が澄んだように感じられる。ここのつという場はどのようにつくられ、そのお菓子の世界は日々どのように生み出されるのか。店主の溝口実穂さんに聞いた。

「豆が好きな家族なので、常に豆が家にありました。祖母は豆を炊くことが好きで。食べたいから炊くというより、炊くのが好きだから炊くという」

豆を炊くことが好きなお祖母さまに対して、溝口さんはそれを調理して皆に振る舞うことが好きだったという。

「それを食べて喜んだ顔を見るのが好きだったんです」

その想いは、現在溝口さんがここのつで実践していることにも通底している。

「持ち帰りのお菓子というのは、私の役割ではないなと思っているので基本的にはやっていません。できたてだったり、冷たかったり、手で食べたり、やっぱりこの場所で食べてもらうべきだと思っていて。和菓子といえば菓子切りを使って食べる練り切りだというイメージをちょっと払拭したいという思いもあって、それでいろいろなカトラリーを使ってお出ししています。練り切り菓子という、小さなサイズの中で様々な細工によって季節を表現するという形は素晴らしいと思うんです。ただ、それだけが日本のお菓子だと思われるのはすごく悔しいという想いがあります。日本にはこんなにも四季があって、それによってもっと色々な野菜や果実ができるのにと。私はそういう季節のものをつかったお菓子を幼少期からつくってきているし、自分が食べたいお菓子でもある。なので、それを召し上がっていただく場をつくろうと思ったんです」

一品ごとに茶器や皿、スプーンやフォークなどが入れ替わり、味わいも様々なお菓子が運ばれてくるというここのつの茶寮はダイナミックだ。溝口さんは、この体験の仕方を舞台やコンサートに近いのだと話す。

「『時間芸術』という表現を、安藤さん(陶作家の安藤雅信氏)がしてくださって、まさにそうだなと思いました。ひと皿がどうとかこうとかというものではなく、全てを経験・体験してもらって、およそ2時間の中でトータル的にどうだったかというのを見てもらうものなんです。私としては、それは舞台とかコンサートやライブ、映画と同じものだと思っています。そういう感覚で、単純にそれが『食べる』という行為になっただけなんです。飲食店とは全然思っていなくて、そういった体験が出来る場所と思ってやっているので、そういうふうに感じてもらえたら嬉しいです」

「それぞれの方の人生経験によって、受け取り方は様々だと思うんです。家に帰ってすぐ何かを実践する人もいれば、別にそうじゃない人もいて。それはもう自由だと思っています。何かを経験したことによって、人生にプラスになることを少しでも持って帰ってもらえたらいいなと思っています」 

体験を持って帰ってほしいと語る溝口さんだが、コースの際はお菓子とお茶に加えて、彼女の好きなもの、最近面白かったことや昔の思い出などを自然に語り聞かせてくれる。そんなこともあってか、たしかに食体験だけでなく、そういった楽しさの追体験という感覚も浮かんでくる。

「(昔からお茶も)よく淹れていました。お茶箱があって、その中から選んで、その日のお菓子に合うお茶を選ぶということはよくしていました。その経験はベースとして結構大きいですよね。良いお茶を飲んでいたと思います。その時はわからなかったですけど、そういう環境が良かったのかなというのは思います」

安藤雅信氏の茶杯に厳かに注がれるお茶だが、そこに硬さはなく、穏やかに飲むことができるのも、そういった幼少期からの経験が反映され伝わってきているからかもしれない。

この日、前編でご紹介した軽羹コースの終わりに、特別につくっていただいたもう一品があった。CHAGOCOROのために、お茶がらを使った “甘くない” お菓子。お茶がらを炒めたものが小豆を含んだもち米にのせられ、桜えびがトッピングされている一品。見た目はお菓子とは即答できない感じだが、隠し味の蜂蜜と山椒が徐々に口に広がる。合わせるのは甘み・旨味の強い玉露。最後の最後まで、ここのつ、溝口実穂さんの世界観が表現されていて、お腹はとうにいっぱいではあったけれど、もっと味わいたいと感じる時間芸術だった。


【菓子屋ここのつ】
店主・溝口実穂さんがつくる菓子のコースをいただく完全予約制の茶寮。季節の恵みや物語まで感じられるようなお菓子に魅了されるファンは多い。毎月の和菓子のコースに加え、料理家との共同茶寮、朝食会、溝口さんが愛する食材をフィーチャーする「偏愛シリーズ」など、様々な趣向を凝らした茶寮を催す。
予約などについては全て下記ウェブサイトにて公開。
kokonotsu-9.jugem.jp
www.instagram.com/_____9__/ (Instagram)

Photo: Norio Kidera|Text: Yoshiki Tatezaki

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