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2020.04.03

お茶が繋ぐ命と料理
茶禅華の静謐な
ティーペアリング
<後編>

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料理に余白を残し、お茶を合わせる

“和魂漢才”の姿勢で、中国料理を進化させている[茶禅華]の川田智也さん。川田さんにとってお茶は、自らの人生においても、料理との関わりにおいても重要なパートナーである。後編では料理とのペアリングについての哲学を掘り下げて紹介する。

料理と合わせるお茶は、マネージャーの大下太洋氏と相談しながら決めているという川田さん。

「試作した料理を食べて浮かぶイメージを大切にしています。そのあと、肉付けするようにお茶を絞り込んでいきます」

ペアリングの考え方の基礎は、[日本料理 龍吟]での研鑽で身についた。

「日本料理は余白を残している料理だと感じています。分かりやすい例ですと、お茶菓子。甘くて、口の中が乾き、水分が欲しくなる。ある意味、口の中にストレスをかけて、ドリンクが入る余地を作っています。日本料理もフランス料理も、そうした余白を確保することで、ドリンクとともに成長してきたのだと感じています。対して中国料理は口の中で完結する料理が比較的多いように感じています」と語る。

中国料理にはそもそも、お茶やアルコールのペアリングという概念が存在しない。

「しかし僕自身が年齢を重ねていき、淡い味が好きになって行く中で、お茶の入る余白が生まれてきました」

黒酢の酢豚と雲南紅茶のスパイスティー

酢豚は、黒酢でシンプルに豚肉の味を表現

ペアリングの姿勢を明確に感じる一皿が、この黒酢の酢豚だ。清湯(チンタン)で3時間蒸した骨つき豚肉に衣をつけて揚げ、花椒とクミンを混ぜた黒酢餡で絡めた。豚肉の旨味をシンプルに表現した料理に合わせるのは、雲南紅茶にハーブやスパイスをブレンドしたもの。ペアリングすることで、お茶が“香りのソース”として機能する。この組み合わせのため、あえてスパイスはシンプルに寄り添わせる。

雲南紅茶をサイフォンに入れ、スパイスや乾燥バラの香りを纏わせる

「雲南紅茶にブレンドしたのはバラの蕾、レモングラス、クローブ、シナモン、馬告(マーガオ)、ローリエです。これをサイフォンに入れ、30秒ほど煮出します。口の中でソースが完成するイメージですね。ワインペアリングの際にも、同じようなスパイス感もあるものを選択しています」

鮑の蒸し物と太平猴魁(たいへいこうかい)

蝦夷鮑をナンプラー、長ネギ、生姜、春雨とともに蒸しあげ、肝のソース、自家製XO醤の2種のソースをのせた。合わせるのは中国・安徽省、黄山の北側で作られる緑茶・太平猴魁

昆布の旨みに近い、海のミネラルを感じる蝦夷鮑。深いミネラル感に硬質感のある緑茶の味わいが寄り添う。安徽省で作られた太平猴魁という緑茶は、力強いミネラル感と清涼感が特徴だ。

一輪挿しのようなグラスの中で茶葉が開いていく様子に目も奪われる

「茶葉のプレゼンテーションも兼ねて、お店でお出しするときはこの細長いグラスで。最初の一口と、抽出時間が経った最後の方のお茶の味のグラデーションも楽しんでいただけます。山で栽培されるお茶ですが、昆布だしのような味わいがあり、海と山がつながっていることを感じられる組み合わせだと思います」

タンを引くように、お茶を淹れる

「僕はお茶の専門家ではないので、茶師のような知識はありません。お茶は魚や肉と同じ“食材”と捉えています」と川田さんは言う。料理の「余白」を補完するためのソースのようにお茶を合わせたり、口中の油分を洗い流し清涼感ある余韻を残すワインのような役割として合わせたり。「どちらの役割も担えるのがお茶の良さですね」

茶葉によって、また抽出したい味わいによって、水や茶器も変える。浄水は、お茶の香りを引き出すミネラル分豊かなタイプと、ソリッドで凛とした味を引き立たせるタイプの2種類を使い分ける。超硬水のミネラルウォーターを使うこともあるという。

急須は酸化焼成した(多くは赤褐色)ものと、還元焼成した(青〜黒色)ものの2種類に大別できる。

「茶器により細かく違うので一概には言えませんが、とても大雑把に説明しますと、酸化焼成の急須で淹れたお茶は香りを高めて、還元焼成した急須は喉越しに奥行きが出る、というイメージです」

一種類の茶葉でも、使用する水の性質、抽出する温度帯、時間、茶器、飲む器で様々なバリエーションが生まれる。「お茶を淹れるというのは、湯(タン=中国料理のスープ)を引くような感覚がある」と川田さん。茶葉と湯というシンプルな構成ながら、日本の風土を感じる唯一無二の味わいが立ち昇ってくる。それはお茶という一つの飲料というよりは“料理”に近いアプローチかもしれない。

「知れば知るほど、お茶の世界は奥深く、魅力的な世界です」と川田さん。料理と並行して、茶禅華のティーペアリングは今後ますます進化を続けそうだ。

茶禅華
“和魂漢才”の心が随所に感じられる、唯一無二の中国料理店。2017年のオープン以来、独創的な料理とホスピタリティー溢れるサービスに魅せられた食通たちの足が絶えない。料理は静謐でありながら大胆。味わいは淡く奥深い。
季節のおまかせコース(約15品)23,000円〜
ティーペアリング(約8種類)8,000円〜
sazenka.com

Photo: Masaharu Hatta
Text: Reiko Kakimoto
Edit: Yoshiki Tatezaki

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