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2020.05.12

相手に与えられる限りの愛を
sioの今と、お茶の時間
<前編>

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2018年にオープンし、昨年11月発表の『ミシュランガイド東京2020』で一つ星を獲得した代々木上原の人気フレンチレストラン[sio(シオ)]。

オーナーシェフ・鳥羽周作さんは、厳しい状況が続く飲食業界にありながら、レシピの公開やテイクアウトメニューの開発にいち早く取り組むなど、目覚ましい活躍でいま最も注目を集めるシェフの一人だ。

メディア出演や自身のSNSでのライブ配信など、厨房の外でも止まることなく走り続ける鳥羽さんに今回「お茶とともに楽しめる料理」を聞くと、忙しい合間を縫って新しいレシピを提案してくれた。今回から2回に渡って、鳥羽さんの勇気が湧いてくるような料理人としての哲学と、一流の料理ロジックが詰まったレシピをご紹介する。

バインミーにもコース料理にも、
通底するsioのイズム

オンラインで取材をした4月の終わり。その日も[sio]のオーナー・鳥羽周作さんは「時間ですか? 全然大丈夫っす!」と豪快に笑いながらも、とても忙しそうだった。それもそのはず。通常営業ができないという逆風の中、テイクアウトとして始めた「HEY!バインミー」は平均140本、「日替わり弁当」は100個が連日完売しているという。

コロナ前と今、何が大きく変わりましたか?と質問すると、鳥羽さんは「実は芯の部分は変わってないんです」と答えた。

「この数年、会社として『幸せの分母を増やす』という目標がより明確になっていった中で、お店も増えてきて、自分は現場から去って厨房を渡すということを意識していました。スタッフの成長のために『自分は厨房を去らねばならない』。そんな決意をnoteにも書きました」

コロナの影響で通常営業が困難になったとき、いち早く鳥羽さんたちsioチームが動き出せた背景にはこの体制がすでにあったからだという。

「社会状況が変わっても、僕らがしたいことは同じで『幸せの分母を増やすこと』です。だから相手にベクトルを向けて、みなさんが今何に困っているかを考えました。そのために僕は2週間自宅にこもり、買い物や家事をしてみたんです」

シェフという目線から一旦離れ、家で過ごすことを余儀なくされた多くの人たちと同じ目線で毎日の暮らしの中にある食を見つめた。そのいくつかの回答として、テイクアウトで味わえるバインミーやレシピ公開「#おうちでsio」が生まれた。

sioで販売されている「HEY!バインミー」。具沢山の美しい見た目に、見事な味のバランスで1000円はまさにお値打ち価格。人気につき予約推奨だ

「自宅で過ごす中で見えてきたのが、今は高級なものではなく、明らかに毎日食べる食事に困っているということ。だからまずはリーズナブルなものを作らなければならないと思いました。そのためには、お店としては数を作らなければならない。さらにsioらしさのある魅力ある商品づくりを目指しました。だからサンドウィッチではなく、競合相手の少ないバインミー。しっかりと料理のロジックを生かして作る。僕らの位置づけとして『HEY!バインミー』は税込み1000円で食べられる“究極のsioのイズム”なんです」

sioは本来、客単価2万円のコースを提供するレストランだ。ただ、ジャンルはフレンチやイタリアンなどに縛られないボーダーレスな形態。さらにはファストフードやファミリーレストランなどの「価格帯のレイヤー」も意識はしていないという。

「料理人というくくりの中で、バインミーもナポリタンも2万円のコース料理もおいしくするという感覚は、このような状況になる前からsioチームの皆が同じく持っています。だからこそ、他店が通常メニューをテイクアウト化する中で、僕らはバインミーや週替わり弁当を出せたのだと思う」

“GIVE”で回る社会にしたいんです

テイクアウトとほぼ同時に始めたのが「#おうちでsio」だ。唐揚げを筆頭に、ナポリタンから酢豚まで、惜しげもなくレシピと作り方を動画付きでSNSとブログにアップ。驚くべきはコンビニや小さなスーパーで手に入るもので作れるレシピであるにも関わらず、食べると「いつもとは明らかに違う」と感じる味の設計になっているという点だ。

「レシピを公開することで、自宅にいて自分で作っているのに“sioの感じ”を感じられたらハッピーじゃんって単純に考えて、最初唐揚げを公開しました。でもその奥には、おうちにいる人が増えている中で、料理しなきゃいけなくなった、料理する回数が増えたという人がいて、つまりレストランで食事をする体験ができる人が明らかに減った、という状況があります。その中で、料理人の価値をこれからどう考えるべきかという自問がありました。今までは料理人はレストランの中で作って喜ばれていましたが、これからは“広める”とか“広げる”ということに価値がシフトしていくのではと考えています」

「レシピで利益を求めたくなかったんですよ」と言う通り、レシピは無料で公開。「みんなが苦しい状況のとき、料理人として僕は『初動はギブしていく』と決めた。ほかの選択肢はなかった。きれいごとに聞こえるかもしれないけれど、料理人としての本質は“他者への愛”が先立っていることだと僕は思うから」

「こういう状態になって、みんな今まで積んできた“徳の貯金”を切り崩しながら生きているんだと思うんですよね。そんな中で、例えばバインミーを買ってもらって得られた利益は、ギブすることに使いたい。自分たちのキャッシュにするのではなくて、人のために使うことのほうが、ものすごく大事な気がしています。だってそもそも僕らは、作る相手がいなければ料理をするモチベーションがないんですよ。料理人としての価値がなくなってしまう。だからまず人をどうハッピーにしていくかってことに全力で取り組むことに、僕らの本質があるように思うし、これからの社会はそうした“ギブ”で回っていくんじゃないか、という予感もあります」

こうした鳥羽さんの姿勢はレシピに如実に表れている。鳥羽さんのレシピには必ず「余白」がある。「この食材じゃないとできないとか、おいしくならないみたいなプレッシャーを与えてしまうような、がんじがらめにするレシピは作りたくないですね。また例えばオーブンがない家もあるのにオーブンを使ったレシピを考えちゃうのも優しくない。逆に、家にある野菜を炒めて、コンビニの肉団子を入れて酢豚になりますよみたいなレシピって、めちゃやさしいでしょ?」

相手に常にベクトルを向けている。それがsioの、鳥羽さんの「愛」だ。

そんな鳥羽さんが家でほっとする時間、仲間や家族と食事をする時間に、常にかたわらにあるのがお茶だ。「この見た目ですが、家でお酒を飲むことはほとんどないんです」と笑う鳥羽さんが考えるお茶の時間とは。後編ではお茶のグリーンサラダのレシピとともに紹介する。

5月1日「八十八夜」で新茶の季節を迎えた今回、知覧の新茶を「sio弁当」をご購入された方にお裾分けさせていただけることになりました。後編が公開される5月15日(金)数量限定で、「sio弁当」に新茶リーフを添えてお渡しいたします(代々木上原店のみ)。福を呼ぶといわれる新茶で、少しでも心安らぐひとときをお過ごしいただければと願っております。
(sio弁当のご予約等についてはこちらのFacebookページをご覧ください)


鳥羽周作
1978年生まれ、埼玉県出身。Jリーグの練習生、小学校の教員を経て、32歳で料理人へと転身した異色のシェフ。神楽坂[DIRITTO]、青山[Florilege]、恵比寿[Aria di Tacubo]といった名店で修行を積み、2016年3月より代々木上原[Gris]のシェフに就任。その後、同店のオーナーシェフとなり、2018年7月より[sio]としてリニューアルオープン、『ミシュランガイド東京2020』で一つ星獲得。2019年10月丸の内ブリックスクエア内にアラカルトで楽しめる[o/sio]をオープン。12月東急プラザ渋谷内にオープンした純洋食とスイーツ[パーラー大箸]を監修。(各店の営業状況は各公式ウェブサイトをご確認ください)
sio-yoyogiuehara.com(sio 公式サイト)
note.com/sio_co/m/m2af6f687a7a6(sio公式note、#おうちでsio)
twitter.com/pirlo05050505(鳥羽さん Twitter)

Photo: Masaharu Hatta
Text: Reiko Kakimoto
Edit: Yoshiki Tatezaki
Produce: Hiroshi Inada

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